弁護士法人 小野総合法律事務所 ONO SOGO LEGAL PROFESSION CORPORATION

ブログBLOG

2025/05/12 日本語の意味がわかりません

BOBCAT

しばらく前から、日本経済新聞が、おそらくは新卒者等の若者をターゲットとした広告で「ここから動く人は、強い」というコピーを使っているが、これが気になってしょうがない。意味がわからないのである。意味といっても、広告の意図や目的がわからないのではない。日経新聞の自社の広告であるから、日経新聞を読みましょう、そうすればためになってよいことがありますよ(「強い」とはこの意味であろう)という趣旨であることは、容易にわかる。純粋に日本語としての意味が理解できないのである。

具体的には、「ここ」が何を指しているのかがわからない。

「ここ」は、すなおに解すれば場所を指す指示語であるから、ターゲットである若者の、日経新聞を読んでいない(はずだ)という現在の状況・ポジションのことを比喩的に場所的にとらえて、「ここ」と言っているように思える。そうであるとしたら、「ここ」は、価値否定的な意味を持つことになる。つまり、このコピーは、あなたは「ここ」にいてはだめだから、「ここ」から移動して日経新聞を読み始めるべきであると言っていることになる。

他方で、若い時から日経新聞を読み始めるとよいことがあるという趣旨で、「若い時」という時間軸上の位置を比喩的に場所的に表現して、「ここ」と言っているようにも思える。そうであるとしたら、「ここ」は、価値肯定的な意味を持つことになる。この場合、「動く」とは日経新聞を読み始めるという行動を起こすという意味であり、あなたは「ここから=若いときから」日経新聞を読み始めるという行動を起こすべきであると言っていることになる。

皆さんは、どちらの意味で読んでいるのであろうか。

六本木交差点の近くに、でかでかと「バーキン買うなら豊胸しろ」と書かれた美容医療機関の広告が出ている。これも前から気になってしょうがない。バーキンとは、言わずもがなのエルメスのバーキンのことであるし、美容医療機関の広告であるから、豊胸すればいい男にもてて(もちろん、もてるのが「いい男に」ではなく「いい女に」でもよいのだが)何かとよいことがある、として豊胸手術を勧めているのであろうことは理解できる。

しかし、日本語として、意味が理解できない。

つまり、「バーキン買うなら豊胸しろ」とは、「バーキンを買えるほどのお金があるのなら、バーキンなんか買わないで、そのお金で豊胸をした方がよい」という意味のように理解できるし、はたまた、「バーキンを買って持っているだけではだめで、豊胸もしないともてないよ。がんばってせっかくバーキンを買うのなら、加えて豊胸もしないとバーキンが無駄になるよ」という意味のようにも思える。同じく豊胸を勧めるのであっても、前者と後者ではその理由が180度くらい違う。

もちろん、意図的におかしなあるいは間違った日本語にして意味不明にさせ、見る者に「おやっ?」と思わせて関心を引き、誘引するという手法は、広告としてはそれなりに理解できなくもない。

しかし、これが弁護士が仕事で書く文章であったならば、読み様によってまったく異なる意味になるような文章は失格である。実は、そのような文章を書く弁護士は存外多い。

「バーキン買うなら豊胸しろ」の正しい意味は、広告主である美容医療機関のサイトにアクセスでもして確認すればわかるのであろうが、そうしたら相手の思うつぼにはまる気がして、いまだ確認しないままでいる。