2020/02/19 「司法のIT化について」
TI
日本の司法は,他の先進諸国に比べてIT化が遅れていると言われていますが,ここに来てようやくIT化の実現に向けた取り組みが本格化しています。
司法のIT化は,訴訟等の法的手続のオンライン化を実現し,また訴訟記録を電子化することによって,手間・時間・コストを削減すること(効率化・省エネ化)を目的としています。
これらが実現すれば,例えば,裁判所に出頭することなく,Web会議で裁判期日を実施したり,訴状等の書面を郵送することなく,ネット上で提出したりすることが可能になります。
一見IT化は良いことずくめであり,IT化が実現されれば効率性が飛躍的に高まるように思えますが,実は現在の制度にも利点はあります。
例えば,現在,私は裁判期日のために半日かけて遠方の裁判所に出向くことがあります。期日での手続が5分程度で終わることもあり,そういうときは「来た意味なかったな・・・」と思って裁判所から帰るときの足取りも重くなるのですが,ときに相手方と対面だからこそできるやり取りをすることができ,それが事件の早期解決に結びつくことがあります。
対面でのやり取り(ここでいう「対面でのやり取り」は,Web会議等での画面を通したやり取りを除きます。)のメリットとしては,まず相手方との最低限の信頼関係の構築に役立つことが挙げられます。人間は通常相手に面と向かって強い言葉を発することにためらいを感じますので,対面だと暴言などもなく落ち着いたやり取りをすることができる場合が多く,そのやり取りが最低限の信頼関係の構築に役立つことがあります(このような「ためらい」は,対面で強い言葉を発すると相手方からその場で物理的な反撃を受ける可能性があるという潜在意識が影響しているように思いますので,このような物理的反撃を受ける可能性がないWeb会議等では上記メリットは薄れるかもしれません。)。裁判所に出頭した場合,期日終了後,裁判所内で相手方と一対一で話をすることができることも大きいです(期日終了後のやり取りでは,期日での形式張ったやり取りでは見えなかった相手方の本音がわかることも多い。)。
また,これは遠方からの出頭の場合に限定されますが,遠方から裁判所に出頭した場合,相手方に「遠方からわざわざ出頭してもらったのだから,きちんと話をしないと申し訳ない」という意識を持ってもらえることが多く,これがその後の円滑な話合いに影響することがあります。
このようにざっと挙げただけでも対面でのやり取りには無視できないメリットがあり,この点は今後も留意されるべきであるように思います。
訴訟記録の電子化については,これが実現すると,裁判所に紙ベースの記録を持参せず,パソコンのみを持参して裁判期日に臨む弁護士が増えるように思います。大きな事件になると,訴訟記録は膨大なものになりますので,持参するのがパソコンだけで済むと確かに便利ではあるのですが,パソコンと紙を比較した場合,確認の迅速性という点ではまだ紙に軍配が上がると思います(現時点でもパソコンのみを持参し,裁判期日の際にパソコン上で訴訟記録を確認する弁護士がまれにいますが,確認に手間取ることが多いです。)。そのため,訴訟記録の電子化が実現しても,私は当分紙ベースの記録を持って裁判期日に臨むことになると思います。
司法のIT化が業務の効率化に役立つことは間違いないですし,良いものは積極的に取り入れていくべきと思いますが,IT化を進めた結果,紛争の早期解決,手続の円滑な進行等から遠ざかったのでは意味がありませんので,事件の性質に応じ,削るべき作業と削るべきではない作業を見極めた対応を心がけたいと思います。