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2019/10/23 債権者代位権

弁護士 59期 眞 鍋 洋 平

1 債権者代位権とは



  債権者代位権とは、債務者が自らの権利を行使しないときに、債権者が(自らの債権の保全に必要な限度で)債務者に代わってその権利を行使する制度です。

  本来、権利を行使するか否かは権利者の自由ですが、たとえば権利を有するAがその行使をしないためにAの財産が減少し、これによりAが自らの債権者に対する債務の履行ができなくなるとなれば話は別で、Aの債権者の利益との調整が必要となります。

  そこで、Aの債権者には、民事執行法上、Aに対する債務名義(確定判決等)を取得した後、その強制執行としてAの権利を差し押さえ、Aに代わって権利を行使すること等により自らの債権を実現する、という選択肢が与えられています。もっとも、時間や費用等の問題により、これらの手続だけでは債権者の保護として不十分な場合もあり得ることから、現行民法は、その補完手段として、一定の要件の下で債権者代位権を認めているのです。

  改正民法は、従来の債権者代位権の要件や利害関係人との権利関係等につき、基本的には従来の判例法理に従って明確化を図るとともに、部分的に従来とは異なる規律を採用しました(以下、上記の例でAにあたる者を「債務者」、Aの債権者にあたる者を「債権者」といいます。)。





2 変更点



 (1) 行使の要件


  債権者代位権は、債権者の債務者に対する債権の期限が到来しない間は行使できないのが原則ですが、期限未到来の場合でも、従来、?被代位権利の保存行為(消滅時効の中断等)、?裁判上の代位、という2つの例外が認められていました。しかし、?については利用実績がほとんどなく、実務上、仮差押や仮処分といった代替手段が用いられる事例が大半であることから、改正民法は、?を廃止し、?のみを残しました(改正民法423条2項)。


 (2) 債務者の処分権限等


  従来、債権者が債務者に代わり被代位権利を行使した場合、非訟事件手続法や判例法理により、債務者の処分権限は制限されるとされていました。しかし、債務者の処分権限を奪うことまでは過剰であるという意見等を考慮して、改正民法は、債権者が被代位権利を行使した場合も、被代位権利について債務者自ら取立てその他の処分をすることは妨げられない、としました(改正民法423条の5。非訟事件手続法も同時改正。)。したがって、もし債権者が債務者による処分権限を制限したい場合には、民事保全手続(仮差押等)や強制執行手続(差押等)を利用する必要があります。


 (3) 訴訟を提起した場合の訴訟告知


  債権者が被代位権利の行使に係る訴訟を提起した場合、その結果が勝訴でも敗訴でも、判決の効力は訴訟の当事者ではない債務者に及ぶと解されていますが(民訴法115条1項2号参照)、利害関係人である債務者に訴訟告知することは債権者の義務ではなく、債務者が知らぬ間に訴訟が終結する可能性もありました。そこで、改正民法は、債務者にも訴訟に関与する機会を与えるという観点から、債権者の債務者に対する訴訟告知を義務化しました(改正民法423条の6)。





3 従来の規律の明文化



 (1) 債権者代位権は、本来的には、金銭債権を保全するための行使が想定されていましたが、判例上、非金銭債権を保全するために行使することが認められたケース(いわゆる転用型)も出てきました。そこで改正民法は、従来の判例法理により認められた転用型の最も代表的なケースとして、登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産(不動産等)の譲受人は、譲渡人に対する登記(登録)請求権を保全するために、譲渡人の第三者に対する登記(登録)請求権を代位行使できる旨を例示的に明文化しました(改正民法423条の7。上記2?や?の新規律は転用型にも準用されます。)。なお、今回明文化が見送られたその他の転用型については、今後も改正民法423条1項の類推適用等により認められていくものと思われます。


 (2) このほか、紙幅の関係で割愛しますが、被代位権利が金銭の支払又は動産の引渡しを目的とするものであるときには、債権者は被代位権利の義務者に対し、自己に対する履行を求めることができること等、従来の判例法理が明文化されました(改正民法423条?同条の7)。





4 債権者代位権は、別稿で取り上げる詐害行為取消権と並んで、債務者の責任財産を保全する制度と位置付けられていますので、併せて制度の内容をご確認下さい。