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2019/02/18 個人保証の制限及び保証人保護のための情報提供義務

弁護士 60期 小 池 孝 史

1 はじめに




  現行民法では,保証契約は書面でしなければ無効とするとともに(現行民法446条2 項・3項),貸金等根保証契約において必要事項を定めなければ無効とすること等により(現行民法465条の2,465条の5),一定の保証人保護が図られておりますが,民法改正により,個人保証の制限,保証人保護のための情報提供義務及び個人根保証人等の責任範囲の制限(極度額・元本確定事由)を設け,保証人の保護を更に一歩進めました。

  本稿では,保証に関する民法改正のうち,個人保証の制限及び保証人保護のための情報提供義務を紹介します。

  なお,改正民法における個人根保証人等の責任範囲の制限については,季刊小野総合通信57号の眞鍋弁護士の記事をご参照ください。




2 個人保証の制限について



 (1)改正民法では,事業のために負担する借入(以下「事業性借入」といいます。)を対象とする個人保証・個人根保証について,保証契約の締結前1ヶ月以内に,公正証書で保証債務を履行する意思を確認しなければ,原則として無効とされました(改正民法465条の6)。

 (2)ただし,次のいずれかに該当する者については(いわゆる経営者保証の場合),公正証書の手続を経ることなく個人保証・個人根保証を行うことができることとなりました(改正民法465条の9)。

  ア 主債務者が法人である場合のその理事,取締役,執行役又はこれに準ずる者

  イ 主債務者が法人である場合の次に掲げる者

   1) 主債務者の総株主の議決権(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株式についての議決権を除く。以下同じ。)の過半数を有する者

   2) 主債務者の総株主の議決権の過半数を他の株式会社が有する場合における当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者

   3) 主債務者の総株主の議決権の過半数を他の株式会社及び当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者が有する場合における当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者

   4) 株式会社以外の法人が主債務者である場合における上記1),2)又は3)に掲げる者に準ずる者

  ウ 主債務者(法人であるものを除く。以下同じ。)と共同して事業を行う者又は主債務者が行う事業に現に従事している主債務者の配偶者

 (3)保証人に対して公正証書による保証意思の確認が必要となる事業性借入の「事業」については,一定の目的をもってされる同種の行為の反復的継続的遂行を意味し,営利の要素は必須ではないと解されております。

 (4)また,上記(2)で述べたとおり,主債務者が行う事業に現に従事している主債務者の配偶者については,公正証書による保証意思の確認が不要となりますが,単に主債務者の事業に従事しているということだけでは足りず,主債務者と共同して事業を行っている者と同視し得る程度に従事していることが必要との考え方もあります。なお,内縁の配偶者は含まれないものとされております。




3 保証人保護のための情報提供義務


 (1)保証契約締結時の主債務者の情報提供義務(法人を除く。)

  主債務者が,事業性借入について個人保証・個人根保証を委託する場合,保証人に なろうとする者(法人を除く。)に対し,1)財産及び収支の状況,2)主債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況,3)主債務の担保として他に提供し,又は提供しようとするものがあるときは,その旨及びその内容について,情報を提供する義務を負うこととなっています(改正民法465条の10)。

  そして,主債務者による情報不提供・不実情報提供の結果,保証人が誤認をして保証契約を締結し,且つ,主債務者の情報不提供・不実情報提供について債権者が悪意・有過失である場合には,保証人が当該保証契約を取り消すことができるとされています(改正民法465条の10)。

  保証人から保証契約を取り消されることを防ぐため,契約締結時の情報提供義務に関し,債権者の方で採るべき対応としては,例えば,保証契約締結時に,「保証人に対して情報提供したこと」について,主債務者から表明保証を受け,且つ,「主債務者から情報提供を受けたこと」について,保証人から表明保証を受けることなどが考えられます。

 (2)主債務者の履行状況に関する債権者の情報提供義務(法人を含む。)

  債権者は,委託を受けた保証人(法人を含む。)から請求があった場合,保証人に対し,遅滞なく,主債務(元本だけでなく,利息,違約金,損害賠償その他の付随する債務を含む。)についての不履行の有無,残高及び期限到来の有無に関する情報を提供しなければならないとされています(改正民法458条の2)。

  債権者の上記情報提供義務については,事業性借入以外の保証についても適用されます。

 (3)主債務者が期限の利益を失った場合の債権者の情報提供義務(法人を除く。)

  債権者は,主債務者が期限の利益を失った場合,これを知った時から2ヶ月以内に,保証人(法人を除く。)に通知しなければならず,債権者がこの通知を怠った場合,保証人に対して,通知までの間,期限の利益を失ったことによって生じるはずであった遅延損害金の保証履行を請求することができないとされています(改正民法458条の3)。

  債権者の上記情報提供義務についても,事業性借入以外の保証についても適用されます。

  今後,債権者は,主債務者が期限の利益を喪失した場合,それと同時あるいは2ヶ月以内に,保証人に対しても,期限の利益が喪失したことを通知し,且つ,保証人に当該通知が到達したか(あるいは,到達していなくても,看做し到達が適用されるか。)留意する必要があります。