2018/10/15 改正民法と請負
代表社員 弁護士 庄 司 克 也
1.請負契約とは,請負人が仕事の完成を約し,注文者がこれに対し報酬を支払うことを約する契約である(改正法632条・旧法632条)。今回いくつかの改正が行われた。その一部を概観する。
2.完成前に仕事の完成が不能となったり,請負が解除された場合に「既にした仕事の結果」(いわゆる出来高)について請負人が報酬請求できるかに関し,旧法には網羅的な規定はなかったが,改正法はこれを定めた(改正法634条)。「注文者の責めに帰することのできない事由によって仕事を完成することができなくなったとき」または「請負が仕事の完成前に解除されたとき」は,「請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるとき」は,「その部分を仕事の完成とみな」して,「注文者の受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる」とされた。出来高に相応の価値がある場合,これを精算することは常識的なことであるし,判例で認められていた内容でもある。
また,注文者の責めに帰すべき事由による不能の場合は第536条2項に従う(これは,旧法下と同趣旨)か,634条によることもできると解されている。
ところで,例えば典型的請負である建築請負で,基礎工事まで完了したが請負人の債務不履行により契約を解約した場合,出来高の給付を受けることは注文者にとって「利益」であろうか。基礎部分を受領して別の請負人に工事を引き継がせて建物を完成させることは,最初からやり直すより工期について利益があると言えそうである。しかし,債務不履行をするような請負人が完成させた部分は品質に信頼がおけないので,いったん壊して新規にやり直したいと思うこともあろう。また,別の請負人が「継ぎ足し」することは,完成建物に欠陥が発生した場合に原因と責任の特定が困難になる恐れもある。請負人との紛争が長期化し解除という結論に落ち着くまで長期間放置されていたような場合,「劣化した」出来高など引きとりたくないということもあり得よう。果たして「注文者の利益」とは,客観的に判断されるだけのもので,主観的な嫌悪感等は考慮されないことになろうか。また,解除の効果との関係で「完成したとみなされる可分部分」に関しては,解除の遡及効は制限されていると解することとなろうか(その部分については,従前の請負人は後述の「不適合責任」を負うのであろう。)。
3.仕事の目的物の「瑕疵担保」責任に関しては,売買契約の「担保責任」の法的理解の変更に合わせて「契約内容に適合しない」仕事の完成物という理解に改められた。注文者は,履行の追完,報酬の減額,損害賠償の請求,契約の解除を求めることができることは明記されており(改正法636条。旧法634条・636条),その内容自体は常識的感覚に適うが,法的効果の詳細は,原則として売買に関する規定を準用するとしつつ,請負契約の性質がこれを許さないときはその限りではないと規定されているだけである(改正法559条)。
契約内容不適合にもとづく注文者の諸権利は,不適合を知ったときから1年以内に「不適合の事実」を通知しなければ保存されず(改正法637条),「その不適合」を理由とする各種の権利主張はできなくなる。1年は長いようで短いので,「これは不適合かな?」と思うものは,もれなく通知しておく必要がある。ただし,請負人が悪意又は不適合について重過失により知らなかった場合には,この期間制限は適用されない。そのような請負人は保護する必要は乏しいからである。具体的な各請求権の消滅時効は改正法の時効の一般規定に従うこととなる(旧法638条及び639条が削除された)。
なお,改正前は,建物等,土地工作物を仕事の目的物とする請負契約の「契約解除」は認められないとされていたが(旧法635条),この条項は削除された。旧法では,(不完全ながら)土地工作物の完成後に請負契約を解除することは,(瑕疵があるとはいえ)現に存在する工作物を除去しなければならないことになり,社会経済的損失である…等と説明されてきたが,現在ではそのような価値判断の合理性は疑われ,判例も解体費用を含めた建替費用相当額の損害賠償を認めたものがあるため,解除を制限する規定は無意味であるということになったようである。
4.さて,典型的な請負である建物建築工事請負契約書は,請負契約の個別の内容(建築する建物の内容や請負金額。工期等。)を明示した契約書に,不適合責任や危険負担等一般的・普遍的な取り扱いを定めた「約款」を添付し,内訳書や基本設計図書等を綴りこむことにより構成される。事業者間の大型商業施設の建築等ではなく,一般の戸建住宅や賃貸事業用アパート等の場合,当該「約款」は請負人側(ハウスメーカー)が用意する定型的なものを使用し,個々の注文者(一般消費者的な当事者)毎に内容を変更したり調整することは稀であろう。今回の改正民法ではいわゆる「定型約款」に関する定めが設けられたが,建築工事請負契約で使用される「約款」もこれに該当しうるもので,法的な意味で「定型約款」としての法的効果を求めるのであれば,改正民法の規定に従った対応が必要である。
5.改正法施行日前に締結された請負契約及びそれに付随する特約については,なお従前の例による(附則34条)。建物の寿命と旧法下での一般的な瑕疵担保責任の存続期間を考えれば,当分の間,旧民法の解釈を忘れることはできない。近隣調整等に手間取り,成約後着工まで期間の空いてしまったような契約は,適用法令を間違えないようにしなければならない。原契約の内容が大きく変わるような変更が加えられた場合,契約の同一性が維持されているかどうかといった問題も起こりうるように思われる。