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2018/09/17 労働審判制度について

パートナー 弁護士 湯 尻 淳 也

1 制度の概要について



  労働審判制度とは,労働者と使用者との間の労働関係についての紛争を,原則として3回以内の審判期日で,迅速に解決するための制度として,平成18年4月に導入された比較的新しい制度で,裁判官である労働審判官1名と,労働関係についての専門的知識を有する労働審判員2名が労働審判委員会を組織して審理にあたります。





2 労働審判の審理について



  労働審判の申立てがあると,裁判所は相手方に申立書及び証拠書類等を送付し,第1回期日前の提出期限までに答弁書を提出するよう求めます。この手続が上記のようないわば「短期決戦」的なものなので,各当事者は第1回期日までに迅速かつ周到に主張立証を準備しないといけません(労働審判規則では,第2回期日までに主張立証を終えることとなっていますが,現実には第1回期日における主張立証で労働審判委員会が心証を形成し,直ちに調停の試みがなされるのが一般的であり,事実上第1回期日が主張立証の期限といえます。)。


  以上に述べた制度の特質から,審理に時間を要する複雑困難な事案(例えば,職場における安全配慮義務違反による損害賠償請求事案など)については労働審判には適していませんし,当事者の解決に向けた意向が硬直的な場合(例えば,解雇事案について,労働者側が復職以外の選択肢を認めないような場合)も労働審判には向かないとされています。このような場合には,労働審判法第24条に基づく手続終了がなされる場合もあります。


  第1回期日においては,当事者が提出した書面に基づいて,労働審判委員会から口頭で質問をする方法で審理が行われます。この際に,代理人弁護士だけが出頭していると十分な受け答えができず,不利な心証を持たれるおそれがあります。したがって,労働者側は本人が,使用者側は事情をよく知る会社の担当者などが同行することが必須となります。実際,労働審判委員会からの質問は主に労働者本人や会社の担当者に対してなされます(それに対して代理人が口をはさんだりすると,「依頼者に話させると不利なことが出てしまうからではないか」との心証を労働審判委員会に持たれかねません。)。


  また,上記のように第1回期日において調停に向けた話合いが行われることも多いので,解決案についても十分に検討した上で臨む必要があります。労働審判においては,申立ての約7割は調停が成立して終了するようです。なお,調停における解決金について,裁判所内での「基準」のようなものはないとのことですが,訴訟におけるそれよりも金額的に低い傾向にはあるようです。


  調停が成立しない場合には労働審判が下されます。それに対し不服がある当事者は,審判の告知を受けてから2週間以内に異議を申し立てることができ,その場合は通常訴訟に移行することになります。なお,労働審判の3割以上が異議を述べられず確定するようです。





3 解雇,残業代請求についての留意事項について



  労働審判は解雇や残業代の請求に関して申し立てられる場合が多いので,留意すべき点を,紙幅の都合もあるので簡潔に述べておきます。


  解雇に関しては,労働者の能力不足や協調性欠如を理由として解雇をする場合に多くの紛争が生じます。使用者側が主張する解雇事由が,解雇を正当とするほどの重大性があるのかも問題となりますが,その点がクリアできたとして,証拠により認定できるかが大きなハードルとなります。その意味で,使用者側としては,(1)解雇に至るプロセスを経ること,かつ(2)そのことを証拠化しておくこと(能力不足や協調性不足を示す事象が生じた場合に,適時に書面で注意を行ったり,始末書の提出を命じたりするほか,就業規則に基づく処分を経るなどしておくこと)が非常に重要となります。口頭での注意などは労働審判においてはそれほど重視されない傾向があります。


  残業代請求については,使用者側から「彼は残業と称して会社にいても,居眠りしたり,たばこを吸っていたりで仕事はほとんどしていない」などという主張をよく聞きます。しかし,タイムカードにより会社にいることが明確な場合に,残業時間に該当することを争うことは事実上困難です。また,固定残業代の定めをしている会社も多いとは思いますが,その固定残業代が有効となる要件として,基本給と明確に区分されて就業規則に定められているか(明確区分性)が問題となるほか,固定残業代の比率が高すぎる場合などには,一定の制限がなされることがあることに留意する必要があるといえます。


  そして,なによりも,労働問題が生じたり,生じそうになった場合には,早めに弁護士に相談し,その後の対応を誤らないようにすることが肝要です。