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2018/03/20 改正民法に関する記事の掲載に当たって・・・債権の譲渡制限特約の例

パートナー 弁護士 松田 竜太

1 改正民法の成立




  平成29年5月26日、民法のうち債権に関する領域を改正する「民法の一部を改正する法律」が成立し、同年6月2日に公布されました(ちなみに、債券は人に対する請求権であり、物に対する支配権である物権と対比されます。)3年を超えない範囲内の日(本稿執筆時点では未定)から施行されます。


  改正民法が企業に及ぼす影響について、「どう変わるのか?」「何をすればいいのか?」「契約書を見直すべきか?」等々の疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。確かに、改正民法に関する書籍が続々と出版され、インターネットにも様々な記事が掲載されている様子を見ると、「自社の業務に大きな影響が出るのではないか」と、漠然と不安になるのも無理はありません。

  もっとも、法改正の正確な趣旨を理解するには、立案担当者による公式解説を確認することが最も確実ですが、改正民法に関し、本稿執筆の時点ではそのような解説書は刊行されていません。

  オフィシャルな書籍の出版やその他の広報活動は、今後行われるものと見込まれますので、現時点では、そのような公的な情報発信に留意しながら、巷間にあふれる情報の多さに惑わされたり、過剰反応したりすることなく、着実に情報を収集するのがよいでしょう(例えば、手始めとして、情報量の少ない「薄い」書籍を購入し、目次から自社の業務に関係しそうな箇所を選び、読んでみてはいかがでしょうか。)。

  小野総合通信も、今後、改正民法に関する記事を掲載していきますので、皆様の情報収集の一助としていただければ幸いです。







2 ルール変更の例・・・債権の譲渡制限特約




(1) さて、今回の法改正は、最高裁判所の判例を条文に明記するものが多く、法律実務は大幅には変わらないということは、よくいわれるところです。一方で、改正民法は、これまでのルールを変更したり、従前にはなかった制度を新たに導入したりする内容を含むことも事実です。

  以下では、ルールの変更・新設の一例として、金銭債権の譲渡を禁止したり、制限したりする合意(特約)の効力について、簡単にご説明します(なお、金融機関に対する預貯金債権には、今後も(2)で述べる従前の制度が適用され、(3)のルール変更は行われません。)。




(2) 例えば、中小企業Aが、大企業又は官公庁であるBから業務を受託し、その業務委託契約書の中に、「A又はBは、相手方の承諾がない限り、本契約により生じた自己の権利を第三者に譲渡してはならない。」という、いわゆる債権の譲渡制限特約があったとします。Aは受託業務を終わらせ、Bに報酬を請求できることになりましたが、その権利を早く現金化したいと考えたAは、譲渡制限特約にもかかわらず、Bに無断で、Bに対する報酬債権をCに譲渡しました。

  改正前の民法では、AからCへの債権譲渡は、AB間の譲渡制限特約に反し、無効であるとされていました。よって、債権譲渡後も、Bに対する報酬債権の債権者は、CではなくAであることになります。ただし、Cが、AB間の譲渡制限特約を知らず、かつ知らないことに重大な過失がない場合は、BはCに対し債権譲渡の無効を主張できない、というのがルールでした。

  このように、譲渡制限特約に反するAC間の債権譲渡は無効となるため、Aとしては、本来、Cへの債権譲渡について事前にBから承諾を得たいところです。しかし、Aより強い立場のBは、承諾を拒む可能性が高いばかりか、そのような承諾を求めてくるAの信用状態を不安に思い、Aとの取引を打ち切ってしまうかもしれません。



(3) 上記のとおり、譲渡制限特約をめぐる従前のルールは、特に中小企業にとって、債権譲渡による資金調達を困難にしているとの指摘がありました。そこで、今般の改正では、譲渡制限特約に反する債権譲渡の効力を、改正前の無効から有効へと転換することにしました。

  これにより、AからCの債権譲渡は、AB間に譲渡制限特約があったとしても有効であり、Bに対する報酬請求権の債権者はAではなくCであることになりますが、Bにとっては、自分の知らないうちに債権者が変わってしまうため、Bの利益を保護する必要があります。

  そこで、改正民法の下では、CがAB間の譲渡制限特約について悪意、つまり特約を知っていたか、又は重大な過失によって知らなかった場合、Bは、債権者となったCに対し、報酬の支払を拒絶できるほか、債権者ではなくなったはずのAに報酬を支払って、その事実をCに主張できることになりました(もっとも、Bは、AC間の債権譲渡を承諾し、Cに支払うことも可能です。)。

  ところが、そのようにしただけでは、CがAB間の譲渡制限特約について悪意・重過失の場合、CはBに報酬を請求しても拒絶されてしまい、また、Aも、既に債権者ではないため、Bに請求することができません。そのため、Bが自発的に支払わなければ、Bに対しては、AもCも報酬の支払を請求できない状態となってしまいます。

  この状態を解消するため、改正民法は、Bが報酬を支払わない場合、Cが、相当の期間を定めて、Bに対し「Aに支払うように」と催告し、その期間内にBが支払わないときは、Bは、もはや譲渡制限特約を理由に悪意・重過失のCの請求を拒めず、Cに支払わなければならないという制度を新たに設けました。



(4) 以上、改正民法により債権の譲渡制限特約の効力がどう変わるかを概観しましたが、債権譲渡に関しては、その他にも従前のルールの明確化や変更がなされています。

  これらの点については、既に50号の眞鍋弁護士の記事があるほか、今後も新たに記事が執筆されるものと思われますので、そちらをご参照ください。