2017/08/15 秘密保持契約について
弁護士 64期 吉 岡 早 月
1 秘密保持契約書の条項の意味
一般に秘密保持契約書(秘密保持誓約書)と呼ばれている書面は,よく企業間の取引で使用されている割に,各条項の意味を意識していないことが多いように思われる。
当然目的があって秘密保持契約書の各条項は作成されているわけだが,その目的としては,例えば,1)開示した情報を他者に漏らさぬよう相手を縛ること2)不正競争防止法上の「営業秘密」としての保護を受けること3)個人情報保護法や番号利用法上の規制を満たすことなどが挙げられる。
以下,どのような発想で各条項が定められているのか,目的に照らして確認したい。
2 「営業秘密」としての保護を受ける
例えば,取引先に対して技術情報等を開示する場合(共同開発の可能性を検討する場合等),これらの情報が意図しない範囲に流通したときには,直接の契約相手方であるか否かに拘わらず,損害賠償請求や当該情報の使用の差止めを求める必要がある場合があろう。当該情報が特許権等で保護されていない場合,このようなケースでは上記の?が目的となる。不正競争防止法上の「営業秘密」として保護を受けられれば,直接の契約相手方以外にも損害賠償請求や情報の使用の差止請求が認められる可能性があるからである。
ここで,不正競争防止法上の「営業秘密」として保護を受けるには,当該情報が秘密として管理されていることを,適法に開示を受けた者が認識できる状態であることが必要である。そのため,情報開示の相手方である取引先に,当該情報が秘密として管理されていることを認識させるために,秘密保持契約書を締結するのである。
具体的な条項としては,「被開示者は,開示者から秘密である旨を明示して開示された情報を,秘密情報として取り扱い,開示者から事前に承諾なく第三者に開示することはできない。」といったものがよく見受けられる。
3 個人情報保護法等の規制に対応する
例えば,個人情報取扱事業者が,第三者に個人情報の取扱いを含む業務の委託に際して個人情報を開示する場合等は,3)が目的となる。
これは,個人情報保護法第22条で求められる委託先の監督の一環として,委託先との間で秘密保持契約を締結することが各種ガイドラインで求められており,これを満たさないと個人情報保護委員会等から行政指導を受ける恐れがあるからである。
この場合は適用を受けるガイドラインを確認することとなるが,例えば,金融庁公表の本年5月30日以降に適用されるガイドラインでは,「委託者の監督・監査・報告徴収に関する権限、委託先における個人データの漏えい・盗用・改ざん及び目的外利用の禁止、再委託に関する条件及び漏えい等が発生した場合の委託先の責任を内容とする安全管理措置」を委託契約に盛り込むことが求められている。
これに対応するには,例えば,「受託者は,開示情報を委託の目的外に利用してはならない。」「受託者は,事前に開示者の書面による承諾がない限り,再委託をしてはなら無い。」といった条項を定めることとなる。
4 2)でも3)でもない部分
上記のいずれにも該当しないが,例えば,第三者に不正競争防止法上の「営業秘密」といえるか微妙な情報を開示することとなったが,そこにはノウハウが含まれているため,当該情報の流通範囲や利用方法をコントロールしたいという場合等には,上記の1)を目的とすることとなる。不正競争防止法上の「営業秘密」に認められるような使用の差止等は難しい場合があるが,当事者間で合意すればそれは有効な契約であり,相手方が契約に違反してそれにより損害を被った場合には,その相手方に対し損害賠償請求をすること等は可能だからである。
この目的を達成するための具体的な条項は,企業が誰に何のためにどのような情報を開示し,当該情報の流通をどの程度制限する必要があるのか,といった個々の事情によって様々な定めを置くことになる。従って個別の事情に応じて弁護士に作成を依頼することをお勧めするが,一つの参考になるのが,経済産業省が公表している「秘密情報の保護ハンドブック」である。例えば,同ハンドブックが挙げる秘密情報の分類と重要性の分析をした上で,どのような事態を回避したいかを弁護士に伝え,秘密保持契約書の作成を依頼するとより効率的だろう。