2016/06/16 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律とその改正について
弁護士 65期 辻 本 直 規
1 はじめに
中小企業における経営の承継の円滑化を図ることを目的として2008年10月から施行されている「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(以下「現行法」といいます。)について,その一部を改正する法律(以下,改正後の法律を「改正法」といいます。)が2015年8月に公布されました。
改正法は2016年春に施行される見通しとなっており,本稿では,現行法及び改正法の概略について解説したいと思います。
2 現行法について
(1)中小企業の経営者は株式や事業用資産(以下「株式等」といいます。)を独占的に所有していることが一般ですが,このような中小企業においては,経営者に相続が発生した場合,法定相続分に従い株式等が分散してしまいます。また,経営者が生前贈与や遺言によって後継者に株式等を承継させていたとしても,相続人から遺留分減殺請求権(民法1031条)の行使がされると,価額弁償によらない限り,株式等が分散する結果となります。
現行法は,遺留分減殺請求権の行使により,後継者が取得した株式等を手放さざるを得なくなり,事業の円滑な承継が実現できない可能性があることなどを踏まえ,次のような制度を設けています。
1) 除外合意
除外合意とは,遺留分権利者全員との合意により,贈与された株式等を遺留分算定の基礎財産から除外することを認める制度であり(現行法4条1項1号,5条),これにより後継者は取得した株式等について遺留分減殺請求を受けることを防止することができます。
なお,民法が定める遺留分放棄(民法1043条)を利用することによっても,遺留分減殺請求権の行使を防止することができますが,遺留分権利者各人が家庭裁判所に申立てをして許可を得る必要があり,手続が煩雑です。それに対して除外合意は,後継者が単独で,経済産業大臣の確認を受け,家庭裁判所の許可を受けることにより効力を生じます(現行法7条,8条)。
2) 固定合意
固定合意とは,遺留分権利者全員との合意により,遺留分算定の基礎財産の価額に算入する株式の価額を,合意時の評価額で固定することを認める制度です(現行法4条1項2号)。これは,後継者が株式の贈与等を受けた後に,後継者の努力により企業価値が向上し,株式の価値が上昇した場合には,遺留分算定の基礎財産の価額に算入する株式の価額が大きくなり,結果として遺留分侵害額が大きくなることを防止するための制度です。
(2)これら除外合意や固定合意の制度を利用することにより,遺留分に関する紛争を事前に防止することができ,経営者は会社経営に専念することができます。
もっとも,現行法は,除外合意や固定合意といった遺留分特例制度を利用することができる後継者の条件を,先代経営者の推定相続人(被相続人の兄弟姉妹及びこれらの者の子以外のものに限ります。以下同じ。)に限定していますが,これは推定相続人に対して事業を承継させる形態(いわゆる「親族内承継」。)が中小企業における事業承継の最も典型的なパターンであったことを示しています。
3 改正法について
現行法では遺留分特例制度の適用が親族内承継に限定されていましたが,改正法では,親族外承継(親族以外の者に事業を承継させる形態)にも遺留分特例制度を適用できるように改正がされました。
これは親族外承継が近年増加しているという時代背景を反映させた改正といえますが,今後,遺留分特例制度の利用がどの程度進んでいくのか注目されるところです。
4 最後に
新聞報道等によると,事業承継対策を講じていない中小企業が多く存在するとのことですが,事業承継は,後継者の育成等長期間にわたる対策が必要である上,法律面や税務面にも配慮する必要があります。
事業承継をスムーズに実現するためにも,専門家にご相談の上,お早目の対策をお勧めいたします。