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2015/12/15 マイナンバー法の基本

弁護士 64期 吉 岡 早 月

1 はじめに


  「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(以下,「法」といいます。)に基づき,いよいよ平成28年1月からマイナンバー制度が始動します。既に色々な資料が公表されていますが,情報量が多すぎるものもありますので,本稿では民間企業に関係する基本的な部分をまとめたいと思います。

  なお,会社等の法人にも法人番号が付されますが,取扱いに規制があるのは個人のマイナンバー(個人番号)であり,法人番号の利用には規制がありません。



2 対応の必要性


  マイナンバーの取扱いに関する法令の定めに違反した場合には,特定個人情報保護委員会による指導,勧告,是正命令を受ける可能性があります(法50条,51条)。そして,この是正命令に従わなかった場合,個人に対し懲役・罰金の刑事罰が科されるのみではなく,民間企業も罰金の刑事罰を受ける可能性があります(法73条,法77条1項)。また,上記以外にも民事上の損害賠償責任を問われたり,取締役の善管注意義務違反の問題が生じる可能性もあります。

  そこで,以下では民間企業のマイナンバーの取扱いに関する法令の定めについて,簡単に整理します。



3 マイナンバーの取扱いに関する法令の定め


  マイナンバーの取扱いに関する法令の定めは,1)提供・収集・保管の制限,2)本人確認の徹底,3)安全管理措置の構築義務の3つに分類できます。

(1) 目的外の提供・収集・保管の制限

  マイナンバーは,社会保障,税及び災害対策に関する法9条所定の事務(以下,「対象事務」といいます。)に利用目的が限定されており,対象事務に利用する場面以外での,マイナンバーの第三者への提供,提供の要求,収集や保管が禁じられています(法19条,15条,20条)。また,上記の場面以外で,マイナンバーを含む個人情報のファイルを作成することも禁止されています(法28条)。

(2) 本人確認の徹底

  なりすまし等の防止のため,マイナンバーを本人から取得する際は,個人番号カード等の本人確認をすることが義務付けられています(法16条)。本人確認方法については,内閣官房,国税庁及び厚生労働省のホームページで詳しく説明されています。

(3) 安全管理措置の構築義務

  これは,個人情報保護法上の安全管理措置構築義務が厳格化されたものです。個人情報保護法により同義務を負う個人情報取扱事業者に該当しない者も,マイナンバーと個人情報が紐づいている場合の当該情報の取扱いについては,法32条から34条で,個人情報取扱事業者と同様の義務が課されています。また,個人情報と紐づいているか否かに関わらず,マイナンバーについては,法12条で安全管理措置構築義務が課され,また,取扱いを第三者に委託する場合は当該第三者を適切に監督しなければなりません(法11条)。



4 特定個人情報保護委員会のガイドライン

  法令に従った企業の具体的な対応に関し,特定個人情報保護委員会は,ホームページで「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」を公表しています。同ガイドラインでは,マイナンバーを取り扱う責任者及び担当者の明確化や担当者の教育等のソフト面だけではなく,マイナンバーを含む個人情報ファイルのシステムログや利用実績の記録化等,ハード面の整備も求められています。

  もちろん,ガイドラインから直ちに具体的な対応方法が導けるわけではありません。

  マイナンバーの取得段階を例にとると,法16条では本人確認が義務付けられ,ガイドラインではマイナンバーを取り扱う担当者の明確化や担当者の監督・教育が求められています。関係する対象事務が従業員の給与・社会保障関係のみであれば,人事総務を扱う者を担当者にして監督・教育をし,当該担当者が従業員全員の本人確認を行えばよいでしょう。しかし,例えば個人の土地を借りている場合,地代の支払調書作成のため,地主からマイナンバーを取得し,本人確認をする必要があります。この場合,1)地主と直接関わる従業員を取得段階における担当者として地主の本人確認をさせる,2)担当者は経理を扱う従業員に限定し,地主と直接関わる従業員にはマイナンバーを扱わせず,地主から郵送でマイナンバー記載書類及び本人確認書類を担当者に送付してもらうという方法が考えられます。1)では従業員に対する監督・教育コストが,2)では地主がマイナンバーの提供を拒んだ場合の説明・説得方法がネックとなります。この点,地主がマイナンバーの提供を拒むことを回避するため,予め賃貸借契約書で地主のマイナンバー提供義務を定めておく等の対応をとることも考えられるでしょう。

  このように,マイナンバー対応にあたっては,各企業の関係する対象事務の範囲,規模,現在の業務フローに照らして適切な方法を考えていくこととなります。その場合,法やガイドラインに加え,税や社会保障に関係する法令の参照が必要となりますので,適宜弁護士・税理士・社会保険労務士等にご相談いただければと存じます。