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2022/01/27 <株主総会資料の電子提供制度について>

弁護士 58期 松 村 寧 雄

※小野総合通信 Vol.73(2021年秋号・2021年11月1日発行)より転載

1 はじめに

 令和元年の会社法改正は,取締役の報酬等に関する規律の見直し等の改正がなされ,令和3年3月1日から施行されましたが,同改正法のうち,株主総会資料の電子提供制度については,上記の施行日には施行されず,令和4年の年度内(令和5年3月まで)に施行される予定です。同制度は,振替株式を発行する会社(上場会社はこれに該当します。)に対応を義務づけられていますので,当該会社においては,改正のポイントや今後の対応手順などを確認しておく必要があります。

2 制度の概要

  1.  株主総会にあたっては,株主は,会社からの情報提供がされなければ,議決権を行使するにあたって判断材料がない上,会社法上,総会の日の2週間前に総会資料を発出するとされていることから,検討する時間が不十分とされ,他方で会社側からすると,総会の資料を印刷したり,株主に郵送したりと,時間だけでなく費用までがかかってしまうという問題を抱えていました。
     そこで,改正法において,定款の定めにより,取締役が株主総会資料内容である情報等を自社のホームページ等のウェブサイトに掲載し,株主に対し当該ウェブサイトのアドレス等を総会の招集通知に記載して通知したときは,株主の個別の承諾がなくとも,株主総会資料を適法に提供したものとする制度が新たに設けられました。
  2.  改正法は,株主総会資料の電子提供制度を利用する場合には,定款の定めが必要とし,定款には,単に「電子提供措置をとる」旨を定めれば足りるとされております(法325条の2)。
     そこで,改正法において,定款の定めにより,取締役が株主総会資料内容である情報等を自社のホームページ等のウェブサイトに掲載し,株主に対し当該ウェブサイトのアドレス等を総会の招集通知に記載して通知したときは,株主の個別の承諾がなくとも,株主総会資料を適法に提供したものとする制度が新たに設けられました。
     電子提供措置の具体的方法については,自社のホームページ等に掲載することが予定され,自社株主のみが閲覧できるような方法も可能です。
     電子提供を行う場合,電子提供をせずに総会資料を書面により提供して株主総会を招集することは許されない一方で,電子提供した上で,総会資料を書面により提供することは許されるとされております。
  3.  電子提供措置をとる旨の定款の定めがある会社では,以下の掲げる事項については,電子提供措置を執らなければなりません(法325条の3第1項)。
     ①法298条1項各号に定める,株主総会の日時,場所,株主総会の目的事項等,②議決権行使書面に記載すべき事項(もっとも,議決権行使書面を交付する場合には本事項については電子提供措置は不要(法325条の3第2項)),③株主総会参考書類の内容,④株主提案に係る議案の要領,⑤計算書類及び事業報告の内容,⑥連結計算書類の内容,⑦電子提供措置事項を修正した旨および修正前の事項。
  4.  電子提供措置については,株主総会の3週間前の日又は株主総会の招集の通知を発した日のいずれか早い日(電子提供措置開始日)から執る必要があります(法325条の3第1項)。
     また,この措置は,総会の日後,3か月を経過する日まで継続して執っておく必要があります(法325条の3第1項柱書)。株主総会決議取消の訴えにおいて証拠等として使用される可能性があることに因ります。
     さらに,電子提供措置については,インターネットを利用することを前提としますので,サーバーがダウンした場合などについて,会社の善意無重過失や中断期間が電子提供措置期間の10分の1を超えない場合などを要件として救済されます(法325条の6)が,救済されないような場合は,株主総会決議取消事由に該当します。
  5.  なお,ここで注意しておかなければならないのは,電子提供措置を執る場合においても,株主総会の日の2週間前までに,株主総会招集通知は発送しなければならない点です(法325条の4第1項)。
     もっとも,当該招集通知においては,電子提供措置を執っている関係上,記載すべき事項については限定され(法325条の4第2項),①株主総会の日時・場所,②株主総会の目的である事項,③書面による議決権行使が可能である場合はその旨,④電磁的方法により議決権行使ができる場合にはその旨,⑤電子提供措置を執っている場合にはその旨,⑥法務省令で定める事項(ウェブサイトのアドレス等の予定です。)等を記載することで足ります。

3 書面交付請求制度について

  1.  電子提供措置は,利便性の高い方法である一方で,インターネットへのアクセスが困難な株主への配慮も必要であることから,希望する株主は,会社に対し,電子提供措置事項の書面を交付することを請求することができるものとされました(法325条の5第1項,2項)。
     具体的には,会社(振替株式の場合は口座を開設している振替機関を経由して)に対して,招集通知が発出されるまで(会社が基準日を定めた場合にはその日まで)に請求すれば足ります。しかも,一度請求すれば,その後のすべての株主総会について効力を有するものとされます(法325条の5第1項)。
     もっとも,1年経過した段階で,会社側から書面交付を終了する通知が出され,催告期間内に異議を述べない場合は,請求の効力が失われますので,注意が必要です(法325条の5第4項,5項)。
  2.  当該請求を受けた会社は,招集通知を送付するに際し,電子提供措置事項を記載した書面を交付しなければなりません(法325条の5第2項)。
     具体的には,ウェブサイト上の株主総会参考書類等をプリントアウトして交付することになると思われますが,当該ウェブサイトと交付する書面が完全に一致しなくとも良く,電子提供措置事項が記載されていれば問題ありません。
     なお,会社として,上記の書面による交付請求に対しては,法務省令で定めるものの全部又は一部について,書面に記載することを要しない旨,定款に定めることができますので(法325条の5第3項),実務的には,この定款変更を行う必要があるといえるでしょう。
     法務省令に定めるものとしては,株主総会参考書類のうちの一部である株主資本等変動計算書,個別注記表及び連結計算書類等が予定されています。

4 まとめ

 株主総会資料の電子提供措置制度は,定款に定めることにより,利用することが可能ですが,振替株式を発行する会社にとっては,定款に定めることは義務とされております。もっとも,法律の定めにより,電子提供措置制度に関する改正規定の施行日において,その旨の定款変更決議がなされたものとされますので(整備法10条2項),当該会社においては,上記の定款変更は不要です。
 さらに,上記の施行日から6か月以内に総会を開催する場合は,なお従前の例によるとされますので(整備法10条3項),これまでどおりの手順で総会を開く必要がある点,注意が必要です。
 現実的な対応としては,施行日と総会開催日の時間的な関係を確認した上で,電子提供措置制度の適用があるかどうかを確認し,当該総会において,上記3⑵の書面による交付請求に対して,法務省令に定める事項については当該書面に記載することを要しない旨の定款変更を行うという対応になろうかと思われます。
 以上,今後の対応のご参考になれば幸いです。