弁護士法人 小野総合法律事務所 ONO SOGO LEGAL PROFESSION CORPORATION

ブログBLOG

2015/03/16 「条文で用いられている用語」

弁護士 63期 横山 裕一

  法律の条文の中には,1文が長く,一読して意味が判読しづらいものもありますが,そこで用いられている用語には,内閣府法制局によって細かく用法が定められており,普段は同じような意味で使っている用語でも,条文上は意味を区別して使われています。今回は,この中でも代表的なものをいくつかご紹介します。


1.「又は」と「若しくは」

  英語でいうとorの意味をもつ選択的接続詞ですが,通常は「若しくは」ではなく,「又は」を用いるものとされています。また,3つ以上の言葉を列挙するときは,最後の言葉の前に「又は」を記載し,それより前は読点で区切ります(例:A,B,C又はD)。

  「若しくは」が用いられるのは,「又は」の前後で繋げた言葉の中で,さらに選択的接続詞を用いる必要がある場合です。例えば,「A又はB若しくはC」との記載は,まずBとCが選択的関係にあり,それらとAが選択的関係にあることになります。「相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割」(民法第13条第6号)という条文であれば,相続の承認と放棄が選択的関係にあり,それらと遺産の分割がさらに選択的関係にあることになります。


2.「及び」と「並びに」

  英語でいうとandの意味をもつ併合的接続詞ですが,通常は「並びに」ではなく,「及び」を用いるものとされています。3つ以上の言葉を列挙するときの表記の方法は上記1と同様です。

  「並びに」が用いられるのは,「及び」の前後で繋げた言葉のまとまりと,さらに別の言葉との間で併合的関係を持たせる場合です。例えば,「A及びB並びにC」との記載は,まずAとBが併合的関係にあり,それらとCが併合的関係にあることになります。「返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったとき」(民法第597条第3項)という条文であれば,使用と収益の目的が併合的関係にあり,それらと返還の時期がさらに併合的関係にあることになります。

  「又は」「若しくは」の場合,通常用いることとされている「又は」がいわば大きい接続で,「若しくは」がいわば小さい接続ですが,「及び」「並びに」の場合は,通常用いることとされている「及び」が小さい接続で,「並びに」が大きい接続になる点で異なります。このほか,いずれの場合も,ひらがな表記ではなく漢字表記をするのが内閣府法制局のルールです。


3.「その他」と「その他の」

  「A,B,Cその他D」と記載された場合は,AからDは並列の関係にありますが,「A,B,Cその他のD」と記載された場合は,AからCがDに包含される関係にあります。

  例えば,ある法律の条文で,「A,Bその他政令で定める事項」という表現がされた場合は,AとBについてはその法律の中で定め,それ以外は政令で定めることになります(政令にAやBに関する事項は規定されません)。他方,「A,Bその他の政令で定める事項」という表現がされた場合は,その法律では具体的なことは定めず,すべて政令の中で定めることになります。「その他の政令で定める事項」に,AやBが包含されるからです。


4.「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」

  いずれも「すぐに」という趣旨の用語ですが,「直ちに」が最も緊急性が高く,「遅滞なく」が最も低いとされています。よって,「直ちに引渡す」という規定より「遅滞なく引渡す」という規定のほうが,時間的に余裕があることになります。


5.「とき」と「時」

  「とき」は条件や場面を表す際に用い,「時」は一定の時刻や時点を表す際に用います。前者の例としては,「○○したときは,本契約は当然に解除される」などがあり,後者の例としては,「○○した時に到達したものとみなす」「○○した時から期間が進行する」などがあります。

  いかがでしょうか。これらは法律の条文を作成する際のルールであり,私人間の契約書をこのとおりにしなかったからといって,その契約が無効になるわけではありませんが,読み方によって複数の意味に解釈できてしまう契約書では,後に相手方との紛争が生じる可能性もあります。ご心配の際は,弁護士のリーガルチェックを受けてみることもご検討下さい。