2014/12/17 ナジーム・ハメド
BOBCAT
「法曹の失敗は、政治家や外科医の失敗と同様に、その負債が彼の上にかからずに、依頼者の上にかかっている。だからして非良心的な法曹は、失敗の意識をもつより先きに、裁判官が悪いとか、陪審制の行われているところなら、陪審員が間違っていたとか弁解し、自己の責任を逃れることができるように努める。しかしこの外見の責任逃れこそ、およそ法曹たるものの口にしてはならないことである」(戒能通孝『法廷技術』(1952年、岩波書店)26頁)。
本日、今年予定されていた最後の判決言渡しがありました。結論は、もちろん当方の全面勝訴。これで今年言渡しのあった7件の判決(同じ事件の一審判決と控訴審判決は、それぞれ1件と数えています)は、すべて全面勝訴でした。めでたし、めでたし。ちなみに、昨年もそうでした。
そのほかに、今年は、口頭弁論終結後、判決言渡し期日の直前になって、相手方(原告)が請求を放棄して終了した事件が1件ありました。
請求の放棄とは、訴えを提起した原告が、自らの請求にまったく理由がないことを認めて、請求をあきらめて訴訟を一方的に終わらせる行為です。
その事件で相手方が請求を放棄した理由は、相手方本人の意向ではなく、判決の結論が全面敗訴となることを覚悟した相手方の代理人弁護士が、(依頼者ではなく)自分が敗訴判決をもらうのがいやなので、敗訴判決を回避するために請求を放棄したというものでした。
確かに、法律上は、判決言渡し期日の直前どころか判決言渡し後であっても判決が確定するまでは請求の放棄ができることにはなっていますが、現実に判決言渡し期日の直前に請求の放棄を(しかも、依頼者の意向ではなく、弁護士の意向で)した例など聞いたことがありません。たとえて言うと、ボクシングで、12ラウンド戦い終わって判定が告げられるのを待っているという段階で、判定を聞く前に自らタオルを投げてリングから降りてしまうようなものです。
同業者としては、まったく理解し難い行為であり、よくもそこまで矜持(節操?)がないものかと、ある意味感心してしまいました。
おまけに、その弁護士のホームページを見ると、好きなもの(者)として、ナジーム・ハメド(※)が挙がっているので、苦笑してしまいます。ナジーム・ハメドは、12ラウンドが終わった後で、判定を聞く前に自らタオルを投げてリングを降りないと思うのですが。
※ナジーム・ハメド:イエメン系のイギリス人ボクサーで、元WBO、IBF、WBCの各世界フェザー
級チャンピオン。ただし、いつもKOで勝ってしまい、判定にまで持ち込まれたことはほとんどない。
もっとも、どうやって依頼者本人を説得して了解をもらったのかと思うと、その説得の技術や依頼者からの信頼を獲得する能力については大いに見習うべきところがあるとも言えそうです。
ところで、来年の「新語・流行語大賞」は、「ナッツ・リターン」で決まりだと思うのですが、どうでしょうか?