弁護士法人 小野総合法律事務所 ONO SOGO LEGAL PROFESSION CORPORATION

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2014/04/16 【法人取引の効果帰属】

弁護士 55期 齊藤 潤一郎

1 はじめに


  法人(主として株式会社)を相手方とする契約については、社内マニュアル等で各種書類の徴求や、意思確認等の手続が定められていることがあるが、意外とその法律的な位置づけが理解されていないことが多い。


2 契約の法人への効果帰属(有効性)を検討する際のポイント


  株式会社では代表者(通常は代表取締役)が代表権を有するので、代表者の行為が当該法人の行為となり、代表者の行為が法人に効果帰属する。よって、法人の契約行為も代表者名義でなされる必要がある( 1)作成名義人の問題)。そして、契約書は原則として名義人あるいは作成権限を与えられた者によって作成される必要がある( 2)作成者の問題)。1)又は2)で権限が否定された場合、当該契約の効果は法人に帰属しない(無効)が、権限がないことを知らなかった善意(無重過失・無過失が要求される場合もある)の契約相手が保護され、契約が有効となる場合がある( 3)表見法理の問題)。

  契約における各種手続等が上記1)から3)にどのように関係するかを把握すると、その法律的な位置づけも明確になりやすい。


3 各論


(1)法人の(商業)登記簿謄本

  法人の登記簿謄本は、当該法人の存在や同一性を確認するための書類であるとともに、代表者を把握するための書類( 1))である。ところで、登記簿謄本の取扱いについて3か月間等の有効期間を設定しているケースもあるが、契約時点において当該代表者(と表記されている者)に代表権があったかどうかのみが問題となる。もっとも、契約時点に近い時点の登記簿謄本で作成名義人の権限を確認していれば、相対的に3)によって保護される可能性が高くなる。

(2)法人の実印・印鑑証明書

  通常法人の実印は代表者か契約締結権限を委ねられた者が管理・使用するので、契約書に実印が押印してある場合は、代表者本人又は作成権限を有する者が作成した可能性が高いといえる( 2))。印鑑証明書は当該印鑑が実印であることを確認する書類であるとともに、2)の補助的確認手段にもなる。権限のない者が勝手に実印を用いて代表者名義で契約をした場合は無効であるが、社会通念上の実印の重要性から3)によって有効と判断される場合がある。なお、2)については、名義人たる代表者自身に意思確認をするのが直截的であるが、この場合、意思確認の内容を証拠してどのように残すかを検討する必要がある。

(3)代表者以外の名義人

  大企業などでは、代表者名義ではなく部署長名義で契約書が作成されることがある。当該法人の分掌規程等で部署長に契約権限が委ねられていれば、一部代表権を授与された形になるので有効である( 1))。この権限の存在を外部から確認するのは困難であるが、会社の規模、取引の種類、部署長専用の会社印の存在、過去の取引、法人本体の認識(法人名義の口座を通す取引か否か等)などから総合的に判断することになり、仮に権限がなかったとしても、外部から見て権限ありと認識してもやむを得ないようなケースでは3)で有効とされる可能性がある。

(4)取締役会議事録・確認書

  株式会社の取締役会決議事項(会社法第362条第4項)について、当該決議を欠いて代表者がした行為は、代表権が否定され無効となる。取締役会議事録(の写し)により当該決議の存在を確認すれば、事実関係として当該決議がなされた(代表権がある)可能性が高いといえる( 1))し、仮に存在しなくても3)により有効とされる可能性が高まる。確認書は、代表者自身によって当該決議の存在を表明する書類であるところ、上記議事録と同様1)3)の観点から一定の有用性(議事録よりは有用性は劣る)が認められている。稀に、議事録を徴求したが決議内容に不備があったので確認書で代替したという話を聞くが、これでは事実推認資料( 1))として意味がない(決議に不備があることが払拭されていない)うえ、契約相手方として決議の不備を明確に認識している以上?の観点からも意味がない。