弁護士法人 小野総合法律事務所 ONO SOGO LEGAL PROFESSION CORPORATION

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2013/12/14 へりくだりたがる人たち

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  今年の「新語・流行語大賞」に「今でしょ!」「お・も・て・な・し」「じぇじぇじぇ」「倍返し」の4つが選ばれたとのこと。でも、「今でしょ!」以外の3つは1回も見たことがないのですが・・・。

  『あまちゃん』も『半沢直樹』も見たいという気にぜんぜんならなかったし、「お・も・て・な・し」もリアルタイムで見ていないのは当然として、その後のニュース等でも目にする機会は皆無でした。もっとも、それって今年に限ったことではなく、例年のことではありますが。

  まあ、『あまちゃん』も『半沢直樹』も1回も見なくとも、弁護士業務はもちろん依頼者のみなさんとの世間話にもぜんぜん困ることはないし、事務所で疎外されるわけでもなく、社会生活もそれなりに営めていますから、よろしいのではないでしょうか。

  それよりも、ここ数年困った「新語・流行語」が目につくので、指摘しておきます。といっても、挙げたい言葉があまりにも多すぎて悩むのですが、一つだけ挙げると、「させていただきます」の乱発です。

  たとえば、新幹線の車内放送で、「各駅の停車時刻をご案内させていただきます」。車掌が回ってきて、「切符を拝見させていただきます」。

  フレンチレストランでは、「本日のメインは鴨をご用意させていただきました」。

  新人弁護士の採用に応募してきた司法修習生の履歴書では、「大学時代は○○部のキャプテンを務めさせていただき、××大会で1位の成績を収めさせていただきました。ロースクール時代はサマークラークで労働事件を中心とする法律事務所で勤務させていただきました」。

  これらは全部「させていただきます」が入る必要はありません。「停車時刻をご案内します」「切符を拝見します」「鴨をご用意しました」「キャプテンを務めました」「成績を収めました」「法律事務所で勤務しました」で十分に敬語になっており、「させていただきます」は過剰です。

  また、「させていただく」とは自分がへりくだる(卑下する)ことによって自分の行為の相手方に敬意を表す語ですから、行為の相手方ではない者に「させていただきます」を使うのは誤りです。サマークラークを受け入れてくれた法律事務所に対しては「(今日から)こちらで勤務させていただきます」で正しいけれど、他の法律事務所に提出する履歴書で「○○法律事務所で勤務させていただきました」はおかしいでしょう。「成績を収めさせていただきました」に至っては、誰に対しへりくだっているのか意味不明です。

  内館牧子『カネを積まれても使いたくない日本語』(朝日新書)には、自身のブログで結婚報告をしたスポーツ選手が、「私○○は、かねてより交際しておりました△△さんと結婚させていただくことになりましたのでご報告させていただきます」と書いた例や、ある俳優が二股をかけていたところバレて騒動になったその会見で、「(A嬢と)お別れさせていただきました。(B嬢とも)お別れさせていただきました」と言った例が紹介されており、大いに笑えます。

  弁護士にも、起案した準備書面の内容について依頼者から了解の電子メールをもらうと、「ではこの内容で裁判所に提出させていただきます」と返信している者がたまにいます。しかし、準備書面を提出する先は裁判所ですから、「提出させていただきます」だと裁判所に対して自分がへりくだっていることになります。弁護士が裁判所にへりくだる理由は何もないし、これでは(もちろん本人にはそのような意図はないはずですが)「私は裁判所に対してへりくだっていますよ」ということを依頼者にアピールしているようなものです。

  皆さん、なんでそんなにへりくだりたがるのですか?

  何にでも「させていただきます」を付けたがる人は、自分が不遜ではなく謙虚な人間であることをアピールしたいのかもしれませんが、「させていただきます」の乱発(つまり過度のへりくだり)は、かえって、言葉を、ひいてはその人自身を軽く見せることになります。ひどい場合には、慇懃無礼を超えて胡散臭い感じさえ与えてしまいます。政治家の答弁でよく出てくる「ただいまのご指摘をしっかり受け止めさせていただき、勉強させていただきます」的な言葉が典型です。

  というわけで、何にでも「させていただきます」を付ける人間は私はあまり信用しません。前述の司法修習生は、超一流大学卒で司法試験の成績もよかったのですが、私の評価上は、書類審査の段階でしっかり×が二つ付きました。

  前掲の内館『カネを積まれても使いたくない日本語』にはそのほかにも多くのおかしな(困った)「新語・流行語」が指弾されており、無内容の自己啓発本を何冊も読むよりも、これ一冊の方がよほどためになります。