2013/07/16 転貸賃料債権に対する物上代位の可否
弁護士 60期 小池 孝史
1.はじめに
不動産に抵当権又は根抵当権(以下「抵当権等」といいます。)の設定を受けている債権者において,債権回収の方法として,抵当権等に基づき,抵当権等が設定されている不動産(以下「担保不動産」といいます。)の賃料債権について,物上代位に基づく債権差押命令を申立て,当該賃料債権から債権の回収を図ることは一般的に行われておりますが,本稿では,担保不動産の転貸賃料債権に対しても,物上代位が認められるかにつき,焦点を当てたいと思います。
2.問題点
例えば,担保不動産について,債務者兼所有者が,債務者兼所有者が代表を務める資産管理会社に一括で借り上げてもらい,当該資産管理会社が第三者(エンドユーザー)に転貸している場合等,債務者兼所有者と転貸人が形式上は別人格であるものの,実質的に同一体と認められるケースにおいては,債務者兼所有者に支払能力がない場合には,通常,当該資産管理会社の支払能力もないことが多く,抵当権者において,物上代位に基づき,債務者兼所有者の当該資産管理会社に対する賃料債権を差し押さえても,当該資産管理会社に賃料を任意に支払ってもらえず,よって,賃料債権から債権の回収を図れないことが想定されます。
他方,第三者(エンドユーザー)であれば,上記のような事情を理由とする支払能力の問題も発生しないことから,債権者としては,債権の回収を図るために,資産管理会社の第三者(エンドユーザー)に対する転貸賃料債権に対しても,抵当権等に基づく物上代位を認めてもらう必要があります。
3.判例及びその後の運用状況
(1)本件のような担保不動産における転貸人の転貸賃料債権に対する物上代位の可否につき,最高裁判所平成12年4月14日決定では,原則として物上代位は認められないものの,「所有者の取得すべき賃料を減少させ,又は抵当権の行使を妨げるために,法人格を濫用し,又は賃貸借を仮装した上で,転貸借関係を作出したものである等,『抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合』」には,例外的に物上代位を認める旨の判断がされました。
(2)もっとも,上記最高裁判所決定後の実務の運用としては,裁判所によっては,物上代位に基づく転貸賃料債権に対する債権差押命令の発令の段階では,上記例外要件である「転貸人(賃借人)を所有者と同視することが相当と認められる場合」について,債権者側に厳格な証明を求めない運用を取っている庁もあるようです。
例えば,東京地方裁判所民事執行センターの場合,次のような事例の分類基準を設け,債権者側から上記分類基準に該当する一応の資料が提出されれば,転貸賃料債権に対する債権差押命令を比較的緩やかに発令することとし,問題があれば,転貸人がする執行抗告に際し,転貸人側から提出された資料も判断材料とし,再度の考案で取り消し,場合によっては,抗告審に判断を委ねる運用をとっております。
1) 人格同視型
人格同視型としては,自然人である所有者が代表者である小規模閉鎖会社が転貸人である等の場合を指します。
2) 濫用型
濫用型としては,所有者または転貸人において,執行潜脱目的等が認められる場合を指します。
債権者としては,濫用型に該当する事例である事情として,?賃借権の設定時期(例えば,賃借権が担保不動産に差押がされた後に設定された等),?賃料と転貸賃料の差額等(例えば,賃料と転貸賃料に差額がない等)及び?所有者と転貸人との関係(例えば,関連会社や親族間等。)等,執行潜脱目的を裏付ける事情を主張・立証することとなります。
3) 債務者型
債務者型としては,担保不動産の所有者と抵当権等の債務者が異なる場合に,当該債務者が転貸人である場合や,債務者と実質的に同一と評価できる者が転貸人である場合等を指します。
(3)上記のような?から?までの類型のほかに,賃貸人と所有者との間に賃貸借関係がなく,賃貸人と所有者との間に管理受託関係や使用貸借等の他の利用関係がある場合であっても,賃貸人を実質的に所有者と同一人と評価することができる場合,賃貸人や所有者に執行妨害等の濫用目的が認められる場合,または,賃貸人が債務者と認められるような場合については,賃貸人の賃料債権に対する物上代位が認められるものと解されております。
4.最後に
以上のとおり,転貸賃料債権に対する物上代位の可否については,少なくとも債権差押命令発令の段階では,比較的緩やかに発令を認める対応をとっている裁判所もありますが,そのために必要となる事情や証拠等については,個々の事案により異なることから,物上代位に基づく賃料債権または転貸賃料債権の差押を検討されている方は,お気軽に当事務所までご相談いただければと思います。