弁護士法人 小野総合法律事務所 ONO SOGO LEGAL PROFESSION CORPORATION

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2013/04/16 職場におけるメンタルヘルス

弁護士 62期 川崎 里実

1.

  うつ病などの心の病による長期欠勤や断続的欠勤を繰り返す労働者が増えています。このような事態を受けて,昨今,職場のメンタルヘルスに対する関心は非常に高まっているところです。

  もし従業員がメンタルヘルス不調を訴えた場合には,雇用主としてどのように対応すべきなのでしょうか?

2.従業員が,うつ病などを理由に休業を申し出た場合

  従業員が,うつ病などのメンタルヘルス不調を理由に休業を申し出た場合には,休業を認めるだけでなく,健康状態が改善されるまでは,当該従業員を業務に従事させないようにすることも必要です。仮に従業員が不完全な労務提供を申し出た場合に,これを安易に受け入れた結果,後に当該従業員の病状が悪化するなどした場合,安全配慮義務違反として損害賠償を請求されてしまうおそれがあるからです。

  そこで,メンタルヘルスの不調により労務提供が困難な従業員については,次項で説明するとおり,就業規則上の休職制度の活用により対応していくべきといえます。


3.休職制度

  就業規則において傷病休職制度を設けている会社は多いと思います。この傷病休職制度とは,一般に,労働者の私傷病による長期欠勤が一定期間に及ぶなど労務提供ができない場合に,直ちに解雇するのではなく,一定期間解雇を猶予し,私傷病の治癒の機会を与えるための制度です。

  近年は,精神疾患や断続的欠勤についても就業規則上の休職事由としている会社が増えていますので,この休職事由に該当する場合には,当該従業員に休職を命ずるなどの対応をとることが望ましいでしょう。仮に,傷病休職制度があるにもかかわらず,この制度を適用せずに解雇した場合には,休職させれば回復する可能性もあったとして,解雇が無効とされてしまう場合もありますので,注意が必要です。


4.治癒の判断基準

  (1)私傷病による休職の場合,休職期間満了時においても当該労働者の傷病が治癒していなければ,退職もしくは解雇となるのが通常です。

  もっとも,メンタルヘルス不調の場合,肉体的な疾患に比べて,治癒したかどうかの判断には困難を伴います。特に,従業員が「従前と同様の仕事は難しいが,より軽微な仕事であれば従事できます。」という場合に,会社はどのように対応するべきなのでしょうか?

  (2)私傷病が治癒したかどうかについて,裁判所は「従前の職務を通常程度行える健康状態に復したかどうか」を原則的な判断基準とする傾向にあるようです。

  しかし,雇用契約上,当該従業員の職種,職務内容が限定されていない場合には,上記の判断基準を修正する裁判例もあります。

  たとえば,従業員が復職を申し出た時点においては完全に回復しているといえない場合であっても,復職後,短期間の間に,従前の職務を通常程度に行える状態まで回復することが見込まれたような場合には,休職期間満了時点で退職とした会社の扱いが無効とされる場合もあるようです。また,従前の職務を通常程度行える健康状態にまで回復していなくても,他の軽微な職務への配置転換が現実的に可能であれば,復職を認めるのが相当とする裁判例もあります。

  ただし,第2項でご説明した安全配慮義務との関係もありますので,完全に治癒したとはいえない従業員を復職させるか否かは,慎重に検討するべきと思われます。


5.職場におけるメンタルヘルス対策

  以上の通り,従業員のメンタルヘルス不調は,会社にとっても非常に悩ましい問題です。このような事態を防止するためには,普段から職場におけるメンタルヘルス対策を講じておくことが大切です。そこで最後に,職場のメンタルヘルス対策についていくつか簡単にご紹介致します。

1)従業員に対して,心のセルフケアを促すための研修や情報提供を行う。

2)管理監督者に対して,心の問題に対する正しい対応方法,労働者への接し方についての教育等を行う。

3)管理監督者及び従業員からの意見聴取,職業性ストレス簡易調査票の利用等の方法により,人間関係まで含めた職場環境のストレス要因を把握,評価し,改善を行う。

  如何でしょうか。この機会にご検討頂ければ幸いです。