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2013/03/17 「リーダーに人を得ない組織がもたらす不幸」

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1 満ち足りた組織は下降へと向かう。それは組織の大小を問わず,会社,社会そして国家といずれにも当たることである。日本も今その範ちゅうにある。その原因は,国際社会を生き抜く上での厳しい制約もあるであろうし,そもそも構成元素である人の向上心低下の問題,そのような社会,組織の建直しを担うリーダー不在の問題等枚挙に事欠かない。このうち,リーダーの働きは,多くの場合即刻その結果の良し悪しに現われるので,リーダーの器量の問題の重要性は誰にも分かり易く,しばしば取り上げられる。


2 スイス・エゴンゼンダ―インターナショナル会長兼CEO(最高経営責任者)であるダミアン・オブライエン氏は,平成24年11月24日(?)付日経新聞朝刊掲載コラム「グローバルオピニオン」の中で,企業リーダーの育成について「後継者は育つのではなく意思的に育てるもので,立派な後継者の育成こそがCEOの最大の仕事だ」と述べている。同氏は,CEOの必要条件を次のとおり指摘する。

1) 底抜けに楽天的な性格の持ち主であること

  いかなる難局に臨んでも「何とかなる」という前向きな気持ちを失わず,組織を引っ張らないといけない。

2) 異質な人材や異質な意見を受け入れる度量の広さを有すること

  耳障りの良いことばかり聴いていては,組織の向上発展はない。多様な人材を使いこなせないといけない。

3) 滅私奉公の精神の持ち主であること

  自分を犠牲にしてでも,組織(公益)に尽くすメンタリティーが必要。リーダーに私心があってはならない。

4) 決断力を有すること

  孤独に耐えて決断を下す強さを持たなければならない。些細なことで怒鳴ったり,緊張の余りお腹を壊すようではいけない。

  同氏は,以上の能力を満たす人材は少ないことが自明という。とりわけ,1)や2)は訓練で身に付くものではなく,元々その人に備わった資質だという。そうなると,早くからその資質の持ち主を捜し出し,帝王学を教え込まなければならないということになる。万人の納得するリーダーの育成は不可能に近い。


3 ダミアン・オブライエン氏の上の提言は,別に目新しいものではなく,不断に耳にする事柄であるのに,それでも新聞で取り上げられるのは,提言の実現される姿を見ることは乏しく,逆に不幸を見るのが現実であるからであろう。

  物質的に満ち足りた組織,社会そして国家がせっかくの先人の努力を無為にして下降を始め,止まることができずに崩壊してしまうのは歴史の教えるところであり,残念なことに,期間の長短はあってもその例外を見つけるのは困難である。実際にも,上の不幸は私たちが身近な所でしばしば見聞きする現象であり,それを見て世の人々は,明日はわが身とは露思わず,「無能な社長を持つと従業員は哀れだね」なんて能天気を宣うているのである。

  ミネルヴァの梟は夕暮れになると飛び立つ,後悔先に立たず,明日は今日の中にある,更にはヤクルトスワローズの低空飛行は広岡追放の呪いにある(筆者はヤクルトの熱狂的ファンである)などといった至言は,今すべきことを知らず,かつ知っても実践できない生身の人間の限界が発する警告でもある。悲しいことに,物質的に満ち足りた時代に生を受けた人々は更なる向上心を抱くことはできず,人の集まりとしての生命力は萎んでいく。そういう人の組織,社会,国家にあっては,リーダーの地位に就くのは,上に掲げられた資質の持ち主とはかけ離れた事なかれ主義者か,又は権力主義者となる傾向が強くなる。


4 日本の現状を見てみると,政治・経済の世界もそうであるが,実情が分からないために人々の関心を引かず,批判を受けることなどほとんどない司法界にも同様の危機のあることを覚える。法の解釈を逸脱して救済の功名に走った過払金訴訟,司法の本分を踏み出して政治への警告に走り続ける定数訴訟,日本国家の根幹を組成する戸籍制度の否定をしてまで非嫡出子の法定相続分の民法規定を憲法違反と宣言しようとするなどの世の耳目を集める言動の目立つ裁判所は,裁判の現場に,裁判所は事実と法に基づいて個別の紛争を解決するという裁判の本分の履行を徹底させるべきリーダー不在を象徴しているように思われてならない。

  リーダーに人を得ない組織の不幸とは,それが公的なものになればなるほど,大きく深刻なものとなり,やがては回復不能な破壊をもたらすことになるのである。司法までもが後世にそのような不幸をもたらす組織にならないよう祈ってやまないこの頃である