2021/07/16 交通事故のよもやま話(ドライブレコーダーの効用)
ドラレコメーカーの回し者ではありません
交通事故に関する法律相談を受けることが多いので,交通事故におけるドライブレコーダーの効用を,以下,ご紹介いたします。
1 交通事故で示談をする場合,一般的には,事故当事者間において,「事故態様」に基づいて事故当事者の「過失割合」を求め(実務上,事故類型ごとに基本の割合や修正要素・修正の程度などが定められています。),双方合意した「損害額」から同過失割合を基にした過失相殺を行い,「賠償額」を合意することになります。
2 交通事故に関する法律相談を受けると,その多くで事故態様が争いとなっています。
例えば,事故直前の交差点進入時の信号の色が何色(赤・青・黄)であったか,進路変更時の事故かそれとも進路変更後の事故(追突)か,衝突時に車両が停止していたかそれとも動いていたか,対向車両がセンターラインオーバーであったか否かなどです。
事故態様が争いとなっている交通事故は,そのほとんどで事故車両にドライブレコーダーが取り付けられておらず,実況見分調書等の刑事事件記録(物損事故の場合には物件事故報告書など),事故車両の衝突痕・衝突の態度,事故状況のうち双方に争いがない事実(事故現場の状況等),目撃者の供述(もし,目撃者がいて協力してもらえる場合),当事者の説明をもとに事故態様を明らかにした調査報告書,当事者の供述などを基に,事故態様の主張立証を試みることとなります。
交通事故の損賠賠償請求事件を受任し,示談交渉を行ったものの,双方の主張が乖離しており,交渉が進展しなければ,訴訟手続によって解決を図ることとなりますが,裁判所は,事故態様を判断するにあたり,刑事事件記録を重視する傾向が比較的多いところ,刑事事件記録は,必ずしも依頼者が認識する事故態様と合致しておらず,乖離している場合があります。
特に,物損事故の場合,人身事故と異なり,実況見分調書が作成されず,簡易な物件事故報告書しか作成されないため,物件事故報告書と依頼者の認識が乖離しており,且つ,依頼者が認識する事故態様の方が合理的ではないかと考えられるケースも少なくありません。
裁判で物件事故報告書記載の事故態様の不合理性を指摘し,依頼者の主張をベースとした事故態様を前提とした損害賠償請求が認められる場合もありますが,残念ながら,そのような認定とならないケースもあります(本題とは離れますが,交通事故で怪我をした場合,実況見分調書の作成など捜査機関に捜査してもらうため,速やかに警察署に診断書を提出のうえ,人身事故に切り替えてもらった方が良いかと考えます。)。
また,人身事故でも比較的軽微な事故の場合,加害者の立会いによる実況見分しか行われないケースがあり,(捜査機関から開示を受けることができる)刑事事件記録上,被害者が認識する事故態様が反映されていない場合もあります。
3 仮に,事故車両にドライブレコーダーが取り付けてあれば,刑事事件記録の内容に関係なく,依頼者の有利・不利に関わらず,事故態様を客観的に確定することができます。例えば,依頼者は黄信号で交差点を進入したと思っていたものの,ドライブレコーダーで確認したら,実は赤信号で交差点を進入していたなど,ドライブレコーダーから確認できる事故態様と,依頼者の認識が依頼者に不利な形で異なっていたとしても,ドライブレコーダーは,自らの認識が誤っていたことを依頼者が理解(納得)する契機にもなります。
このように,ドライブレコーダーを取付けることにより,交通事故の紛争が早期に解決できることを期待できます。もちろん,ドライブレコーダーをつけていても,過失割合の評価や,損害額等で争いがあり,紛争の早期解決が進まないケースもありますが,ドライブレコーダーを取り付けていることが交通事故紛争の早期解決に資することは間違いないかと思います。
ドライブレコーダーは,車の前後両方に取り付けることが望ましいものの,費用面などから前後両方に取付けすることが難しい場合でも,少なくとも前部に取り付けた方が良いかと思います。前部に取り付けたドライブレコーダーに事故状況が映っていないということは,後方からの衝突と推認することができ,後ろから衝突されるということは,相手方車両の追突あるいは追突に近い事故と評価し,専ら相手方に過失があると主張立証することができるからです。
4 ということで,自動車を運転する方や,ロードバイクを運転する方でドライブレコーダーを未だ取付けていない方は,是非,ドライブレコーダーの取付けをご検討いただければと思います。ドライブレコーダーを取り付けていれば,あおり運転の被害を受けた場合に,それを証明する手段にもなります。