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2019/03/15 債務不履行による損害賠償請求に関する民法の規定の改正

弁護士 61期 小町谷 悠 介

1 債務不履行による損害賠償請求とは



  「債務不履行」とは、「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないこと」又は「債務の履行が不能であること」(履行不能)を指します。たとえば、マンションの売買契約における買主が、所定の期限に売買代金を支払わなければ、「(買主が)債務の本旨に従った履行をしない」ことになり、また、売買契約締結後にマンションが火災で焼失し、売主が買主に対してマンションを引き渡すことができなくなれば「(売主の債務の)履行不能」が生じたということになります。

  これらの債務不履行が発生した場合、債権者は、債務者に対し、これによって生じた損害の賠償を請求することができるとされています(現行民法415条、改正民法415条1項本文)。






2 帰責事由がなければ損害賠償請求はできない



(1)ア もっとも、債務不履行が発生した場合であっても、これについて「債務者の責めに帰すべき事由」(帰責事由)がなければ、債権者は損害賠償請求をすることができないと考えられています。

   イ この点について、現行民法では「(帰責事由には特に触れずに)債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき」又は「債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったとき」(すなわち、債務者に帰責事由のある履行不能の場合)に債権者による損害賠償請求ができると規定されており(現行民法415条)、債務者の帰責事由は、履行不能の場合にのみ必要で、それ以外の債務不履行については帰責事由が不要であるかのような規定ぶりとなっていました。

   ウ そこで、改正民法ではこの規定を改め、履行不能に限らず債務不履行全般について、「債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるとき」(すなわち、債務者に帰責事由がないとき)は、債権者は、債務者に対する損害賠償請求をすることができないことが明記されました(改正民法415条1項ただし書き)。

(2)ア また、改正民法は、この帰責事由に関して、「債務者がその債務について遅滞の責任を負っている間に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。」(改正民法413条の2第1項)という規定を新たに設けています。これは、古くより判例上認められてきた理論を明文化したものですが、たとえば、上記のマンションの売買の例に即して説明すると、売主が、所定の期限における買主に対するマンションの引渡しを遅滞している間に、買主及び売主に落ち度のない火災によってマンションが焼失した場合には、たとえマンションの焼失に関する何らの落ち度がなくとも、売主には マンションを引き渡す債務の履行不能について帰責事由があるとされ、買主に対して損害賠償義務を負うことになります。

   イ そして、改正民法は、新たに「債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。」(改正民法413条の2第2項)とも規定しています。これも、従来の実務及び学説上認められてきた理論を明文化したものですが、上記と同様にマンションの売買の例に即して説明すると、売主が、所定の期限内に買主に対するマンションの引渡しの提供を行ったにもかかわらず買主がその受領を拒んでいる間に、買主及び売主に落ち度のない火災によってマンションが焼失した場合には、たとえマンションの焼失に関する何らの落ち度がなくとも、売主のマンションを引き渡す債務の履行不能については買主に帰責事由があるとされます。






3 原始的不能の場合の損害賠償請求について



  現行民法下では、契約に基づく債務が原始的不能な場合(契約締結時点において債務の履行が確定的に不可能な状態)には、この契約は無効であり、そもそも履行すべき債務が存在しないのだから債務不履行も観念できず、損害賠償請求をすることはできないという考え方も有力で、債務の原始的不能を理由とする債権者による損害賠償請求の可否については解釈が分かれていました。

  この点について、改正民法は新たに「契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、…履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。」(改正民法412条の2第2項)との規定を設け、原始的不能の場合にも債権者は損害賠償請求をしうる旨を明文化しています。