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2015/02/16 権利者の地位に胡坐をかくものは・・・

代表社員 弁護士 庄司 克也

1.契約関係にあるABの一方Aが債務不履行を生じ,それに因りBに損害が発生したが,Bは特段の対応をとることもなく漫然と損害が拡大するがままに任せ,あるときその全額をAに賠償請求した。債権者が損害の拡大を傍観していた場合でも,債務者はその損害全額の賠償を余儀なくされるのか。最高裁判所平成21年1月19日判例はこのようなケースにおいて,債権者による損害賠償請求を一定の範囲で制限することを明らかにした。



2.事案は次のようなものである。1)BはAから築約30年の老朽化したビルの店舗を賃借しカラオケ店を営んでいた。2)契約直後から浸水が頻繁に発生し,その原因が判明しない場合も多かった,3)建物診断によれば,本件ビルは使用不能状態ではないが,大規模な改装と設備の更新が必要とされていた。4)あるとき大規模な漏水事故が生じ,Bの営業はできなくなった。5)Aは,事故直後,老朽化等を理由に賃貸借契約を解除し退去を要求し,Bの本件店舗部分における営業再開のめどは立たない状況になった。6)Bは,本件事故によるカラオケセット等の損傷に対し,合計3711万円余の保険金の支払を受けた。6)事故後約1年7ヶ月経過後,BはAに対し,修繕義務の不履行に起因する営業利益の喪失等について損害の賠償を求める本件本訴を提起した。原審は,Bの主張を認め,Aに対し事故後約4年5か月間分(訴訟提起からは約3年間分)の営業利益の賠償を命じた。これに対し,最高裁は要旨次のように判示した。すなわち,店舗の賃借人が,賃貸人の債務不履行により営業することができなくなった場合に,賃借人に生じた営業利益喪失の損害は,債務不履行により通常生ずべき損害として民法416条1項により賃貸人にその賠償を求めることができる(本件でも,Aからの契約解除は無効であるとされた。)。しかし,前記1)2)3)4)5)の事情が認められ,そうであるとすれば,ア・Aが修繕義務を履行したとしても,老朽化して大規模な改修を必要としていた本件ビルで,Bが本件賃貸借契約をそのまま長期にわたって継続し得たとは必ずしも考え難い。イ・また,事故から約1年7か月経過後の本件訴訟提起時では,本件店舗部分における営業の再開は,いつ実現できるか分からない実現可能性の乏しいものとなっていたと解される。ウ・他方,Bのカラオケ営業は,本件店舗部分以外の場所では行うことができないものとは考えられないし,Bは6)の通りの保険金の支払を受けているから,再びカラオケセット等を整備するのに必要な資金の相当部分を取得したものと解される。アイウからすると「遅くとも,本件本訴が提起された時点においては,Bがカラオケ店の営業を別の場所で再開する等の損害を回避又は減少させる措置を何ら執ることなく,本件店舗部分における営業利益相当の損害が発生するにまかせて,その損害の全てについての賠償をAに請求することは,条理上認められないというべきであり,民法416条1項にいう通常生ずべき損害の解釈上,Bが上記措置を執ることができたと解される時期以降における上記営業利益相当の損害のすべてについてその賠償をAに請求することはできないというべきである。」と。この判例は,一定の条件下で賃借人は「損害回避義務」ないし「損害軽減義務」を負うことを前提としたものと理解されている。



3.相手方が債務不履行や不法行為を冒し,損害の賠償を求めることができる場面にあったとしても,何の策も講ぜず漫然と事態を放置することは信義則上あるいは条理上許されない。法的紛争が生じた場合,その損害の拡大を防止するために必要な対応をとることは「債務者・加害者」であれ「債権者・被害者」であれ,共通したモラルである。法的に有利な立場であるからといって何をしても(何もしなくても)いいというわけではない。権利者たる地位に胡坐をかいてはいけない(もちろん,損害回避行動をとりたくても経済的理由等からこれが困難な場合もある。上記のBもまとまった保険金を受け取っていたことからこそ,他の店舗での営業の可能性が現実的であったわけである。)。他方,債務者・加害者の立場になった場合でも,理不尽な請求にはきちんと反論すべきである。とはいえ,あくまで債務不履行を冒した当事者である以上,全ての責任を免れるわけではない。相手の不首尾をあげつらうことに終始すれば,単なる開き直り,不誠実の誹りを免れない。置かれた立場,状況のもとで,なすべきことをする…当たり前のことではあるが,それが実に難しい。