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2014/11/18 ─損害賠償の範囲について─

弁護士 52期 佐野 正樹

1 契約書に関する相談等を受ける際,相談者からのニーズや質問等として頻繁に出てくる事項の一つが「損害賠償の範囲」に関する問題です。

  具体的には,例えば,相談等を受ける契約書が業務委託契約書の場合で,相談者が受託者側である場合には,「損害賠償の範囲,金額を制限したい(が,どうすればよいか)。」という話が頻繁に出てきます(他方で,相談者が委託者側である場合には,逆のアプローチからの話が頻繁に出てくることになります。)。

  本稿では,受託者側の立場で契約書の損害賠償に関する条項を検討する際,どのような方法で「損害賠償の範囲,金額を制限するか」につき検討したいと思います。



2 事業者間契約書(いわゆるBtoB契約書)の場合

(1)契約書上,損害賠償の範囲,金額を制限する方法としては,一般的に,以下の3つが考えられます。なお,これらに関しては,その全部または一部を組み合わせて使うことももちろん可能ですし,実務上そういうケースも多いです。 

  1) 損害賠償に上限金額を設定する方法
  2) 特別損害や逸失利益等,損害の内容をある程度類型化したうえでその一部を排除する方法
  3) 軽過失の場合を排除する方法(責任を負うのは,故意または重過失の場合に限定する方法)

 (2)1)の方法について

  この方法は,制限内容が一義的に明確になることから,実務的には一番取り扱いやすいと考えられます。

  ただし,設定する上限金額の多寡や取引内容の如何等にもよりますが,軽過失による場合は別として,故意や重過失による場合についてまで,損害賠償に上限金額を設定した条項の適用が認められるか(部分的に無効とされないか)には,過去の裁判例等に照らして疑問があり得ることは,留意しておく必要があります。

(3)2)の方法について

   この方法に関しては,例えば,「・・・により現実に発生した通常かつ直接の損害についてのみ賠償責任を負い,間接損害,特別損害,逸失利益等については賠償責任を負わない。」などと定めることが考えらえます。

   もっとも,現実の適用場面では「この損害は,普通損害か特別損害か」等の評価の問題が入り,事前に制限内容を一義的に予測しにくいため,この方法には取り扱いにくい面があることは留意が必要です。

  また,1)と同様に,故意や重過失による場合についてまで,その適用が認められるかには,疑問があり得ることは留意が必要です。

(4)3)の方法について

   この方法もよく用いられますが,現実の適用場面では「軽過失か重過失か」の評価の問題が入り,事前にはその制限内容を一義的に予測しにくいため,やや扱いにくい面があることは留意が必要です。



3 消費者契約書(いわゆるBtoC契約書)の場合

(1)消費者契約書の場合には,事業者間契約書の場合と異なり,消費者契約法という法律による規制が設けられています。

   そのため,

1) 事業者側の契約違反(債務不履行)や不法行為により消費者側に発生した損害について,事業者側の賠償責任の全部を免除する条項

2) 事業者側の契約違反や不法行為が事業者側の故意または重過失による場合において,そのことより消費者側に発生した損害について,事業者側の賠償責任の一部を免除する条項

3) 事業者側の瑕疵担保責任について,その賠償責任の全部を免除する条項
は,無効になります(消費者契約法第8条第1項)。

(2)したがって,消費者契約書の場合には,事業者側の契約違反や不法行為が事業者側の軽過失による場合または瑕疵担保責任について,事業者側の損害賠償責任の一部を免除する条項(損害賠償の金額に上限金額を設定する条項)は有効ですが(ただし,その上限金額が余りに低廉な金額である場合,全部免除と同視されて無効になる可能性があります。),それを超えて「損害賠償の範囲,金額」の制限を設けた規定は,すべて無効になりますので,注意が必要です。