弁護士法人 小野総合法律事務所 ONO SOGO LEGAL PROFESSION CORPORATION

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2015/11/16 「人口減少はみんなの問題」

弁護士 57期 吉田 礼明

1 ある日の相談


  当社の経営企画部のA君から、先日、8か月間の育児休業の申出がありました。A君は、正社員であり、職位は係長ですが、8か月も職場を離れるとなると、代わりに誰かをあてなければなりません。そこで、A君には、復職時には、いったんは原職に復帰してもらいますが、その3週間後には、(6か月後に新設予定の)法務部へ異動してもらい、かつ、ポストの枠の関係上、いったん主任に降格させようと思います。なお、ポストの枠が空き次第係長に戻す予定ですが、いつになるかは不明です。A君は、当初、復職後、引き続き同じ職位で原職に従事することを希望していましたが、最終的には渋々応諾しました。このような人事は何か問題があるでしょうか?




2 法律や厚生労働省告示(指針)の定め


 (1) 育児・介護休業法10条は、「事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」と定めています。

  そして、「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家族生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針(平成21年厚生労働省告示第509号)」(指針)は、「法第10条…の規定により禁止される解雇その他不利益な取扱いは、労働者が育児休業等の申出等をしたこととの間に因果関係がある行為である」とし、また、「降格させること」や「不利益な配置の変更を行うこと」は、同条の「その他不利益な取扱い」にあたるとしています。

 (2) 指針によれば、「配置の変更が不利益な取扱いに該当するか否かについては、配置の変更前後の賃金その他の労働条件、通勤事情、当人の将来に及ぼす影響等諸般の事情について総合的に比較考量の上、判断すべきものである」とされており、A君の法務部への異動が「その他不利益な取扱い」にあたるかは、かかる観点から判断することになります。

 (3) しかしながら、仮にA君の配置変更や降格が「その他不利益な取扱い」にあたるとしても、これらは復職の3週間後に行われていることから、育児休業との間に因果関係は認められないといえないでしょうか。また、A君は渋々ながらも応諾しているのですから、違法とはいえないのではないでしょうか。




3 最高裁判例と育児・介護休業法解釈通達の改正


 (1) 最高裁平成26年10月23日第一小法廷判決・民集68巻8号1270頁は、女性労働者が、労働基準法65条3項に基づき妊娠中の軽易な業務への転換を請求し、異動となった際に、降格された(女性労働者は降格を渋々了解した)という事案で、「女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、原則として同項の禁止する取扱いに当たるものと解されるが、1)当該労働者が軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受ける不利な影響の内容や程度、上記措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして、当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき、又は2)事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって、その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして、上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは、同項の禁止する取扱いに当たらないものと解するのが相当である。」と判示し、降格を有効とした原判決を破棄し、事件を原審に差し戻しました(「1)」、「2)」は筆者による挿入)。

 (2) 上記最高裁判決を踏まえ、厚生労働省は、育児・介護休業法の解釈通達を改正し、「『因果関係がある』については、育児休業の申出又は取得をしたことを契機として不利益取扱いが行われた場合は、原則として育児休業の申出又は取得をしたことを理由として不利益取扱いがなされたと解される。ただし、上記最高裁判決が判示する1)や2)が認められる場合には、この限りでない。」とし、また、「『契機として』については、基本的に育児休業の申出又は取得をしたことと時間的に近接して当該不利益取扱いが行われた否かを判断する」としました。




4 A君の配置変更や降格は、復職の3週間後に行われていることからすれば、育児休業との間に「因果関係がある」と認められる可能性が高く、また、A君が原職に引き続き従事することを希望していたことや、係長へいつ戻れるか不明であることなどからすれば、A君が応諾していることをもって適法と解するのはリスクが高いといえます。事実関係を精査し、1)や2)に該当するか慎重に検討する必要があるでしょう。