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2019/07/15 「相続法も変わります(変わりました)。」

弁護士 57期 吉 田 礼 明

1、昨年の7月6日に「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)」が成立し、民法の相続法が改正されました。

  改正事項のうち配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設等については、2020年4月1日から施行されますが、大部分は、本年7月1日から施行されます(自筆証書遺言の方式緩和については、既に施行されています)。

  そこで、改正の要点(配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設等を除く)の概要について、説明することにいたします。




2、自筆証書遺言の方式緩和


  改正前は、自筆証書遺言についてはその全文を自書する必要がありました。

  しかし、改正により、自筆証書遺言に相続財産の全部または一部の目録(財産目録)を添付する場合、財産目録については、自書する必要がなくなりました(財産目録の毎葉に、署名・押印することで足りることになりました)。




3、相続の効力等に関する見直し


  改正前は、判例で、1)法定相続分または指定相続分による不動産の権利の取得については、登記なくして第三者に対抗することができる、2)特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言(※)による権利の移転は、法定相続分または指定相続分の相続の場合と本質的に異なるところはなく、当該遺言によって取得した不動産(または共有持分権)を登記なくして第三者に対抗することができるとされていました。

  しかし、改正により、相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、法定相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないとされました。

  ※ 改正により、遺産分割方法の指定として特定の財産を一部相続人に承継させる旨の遺言は、

         「特定財産承継遺言」と称されています。




4、遺言執行者の権限の明確化等


  特定財産承継遺言について、遺言執行者は、当該財産を承継した相続人が登記、登録その他の対抗要件を備えるために必要な行為をすることができることとされました。また、遺言執行者は、預貯金債権について特定財産承継遺言があった場合には、預貯金の払戻しの請求や一定の場合に預貯金に係る契約の解約の申入れをすることもできることとされました。




5、遺留分制度に関する見直し


  改正前は、遺留分権利者が遺留分減殺請求権を行使した場合、その対象となる遺贈(特定財産承継遺言や相続分の指定を含む)や贈与は、減殺に服する範囲で効力を失い、遺留分権利者は、物権的支配権限を回復する(結果、対象の財産は共有となる)とされていました。

  しかし、改正により、遺留分権利者は、単に、受遺者や受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求できることとされました。




6、相続人以外の者の貢献を考慮するための方策


  改正前は、相続人であれば、労務提供、被相続人の療養看護等により被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与があった場合、遺産分割における具体的相続分の算定においてそれが考慮されましたが、相続人以外の者は、そのような特別の寄与があったとしても、原則として、何ら利益を得ることができませんでした。

  しかし、改正により、被相続人の親族であれば、被相続人に対する無償での療養看護その他の労務提供により被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした場合には、相続人に対し、寄与に応じた額の金銭の支払いを請求することができることとされました。




7、遺産分割に関する見直し等


  遺産に属する預貯金債権については、判例で、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるとされていました。そこで、改正で、各共同相続人は、預貯金口座ごとに法令が定める一定額まで、単独で払戻しができることとされ、また、家事事件手続法上の仮分割の仮処分の要件が緩和されました。

  その他、遺産分割に関する見直しとしては、?配偶者の保護のための居住用不動産の持戻し免除の意思表示の推定規定の創設、?相続開始後に共同相続人により遺産の処分が行われた場合の遺産の範囲に関する規定の創設があります。