弁護士法人 小野総合法律事務所 ONO SOGO LEGAL PROFESSION CORPORATION

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2017/07/16 「社会の在り方を変える必要があるということ」

弁護士 57期 吉 田 礼 明

1 ある日の相談



  当社は、所定労働時間が8時間であり、時間外労働については、いわゆる36協定を締結し、原則として1か月45時間、1年360時間を限度としていますが、特別条項で、繁忙期等の特別の事情がある場合には、6回を限度として、1か月80時間、1年500時間まで延長できることにしています。しかし、当社の実態として、36協定違反の時間外労働が常態化しています。どうしたらよいでしょうか?





2 法定労働時間と時間外労働



  使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて労働させてはならず、1週間の各日については、休憩時間を除き1日について8時間を超えて労働させてはなりません(労働基準法32条。これが法定労働時間となります)。

  しかしながら、一方で、使用者は、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合には当該労働組合と、そのような労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者との間で、書面による協定をし、労働基準監督署長に届け出た場合には、当該協定の定めに従い、労働時間を延長することができます(労働基準法36条1項。当該協定がいわゆる36協定となります)。

  36協定については、厚生労働大臣が基準を定めることができるとされており、36協定は、当該基準に適合したものでなければならないとされています(労働基準法36条2項、3項。「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準(平成10年12月28日労働省告示第154号)」が当該基準となります)。

  36協定においては、労働時間に関しては、?1日について延長することができる時間、?1日を超える一定の期間について延長することができる時間を定める必要がありますが(労働基準法施行規則16条1項)、上記基準によれば、?について、?1日を超えて3か月以内の期間と?1年間の双方について定めなければならないとされています。そして、上記基準によれば、通常の労働者の場合、?については、例えば、期間が1か月の場合は延長時間の上限が「45時間」とされ、?については、延長時間の上限が「360時間」とされています。ただし、いわゆる「特別条項付き協定」を締結すれば、上記の上限時間を超える延長時間を設定することができるとされています。

  上記基準は、「特別条項付き協定」について、?一定の期間ごとに原則としての延長時間(上記の上限時間以内の時間)を定めること、?上記の上限時間を超えて労働時間を延長しなければならない「特別の事情(臨時的なものに限る)」が生じたときに限り、一定の期間ごとに、労使において定める手続を経て、上記の上限時間を超える一定の時間まで労働時間を延長することができる旨を定めること(当該時間はできる限り短くするように努めること)、?上記の上限時間を超える時間外労働に係る割増賃金の率を定めること(当該率は法定割増賃金率を超える率とするよう努めること)としています。

  つまり、「特別条項付き協定」を締結すれば、あくまで「特別の事情」が認められ、所定の労使の手続を経ることが前提にはなりますが、使用者が望む限りの時間外労働を労働者に行わせることが可能となります。





3 長時間労働に関する規制


  厚生労働省は、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」(平成13年12月12日基発第1063号)や「違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表について」(平成29年1月20日基発0120第1号)等で、1か月100時間あるいは80時間を超える時間外労働に実質的に規制をかけてきました。

  また、本稿執筆時点で、政府(働き方改革実現会議)は、労働基準法で、時間外労働について、原則として1か月45時間、1年360時間とすること、例外的に延長も認めるがその場合でも1年720時間を上限とし、さらに月ベースの上限を設けることを定める方針とのことであり、今後の立法動向が注目されます。





4 回答


  長時間労働に関する規制は、働き方改革の一環として政府が進めているものであり、人口減少への対処の一環と理解できるものです。これまでの社会の在り方が変わっていくという大きな流れの中にあることを踏まえ、36協定違反をしないことはもとより、効率性、生産性の向上に本気で取り組む必要があるのではないでしょうか。