2018/12/15 『天国の門』
BOBCAT
しばらく前の朝日新聞の土曜版に、「好きな1970年代?80年代のアメリカ映画」という記事が掲載されていました。それによると、読者会員の投票によって一番に選ばれたのは、なんと『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でした。
いくらなんでもそれはないでしょう?
確かに、映画としてよくできていると思いますよ。現在、過去、未来、大過去(ラテン語系言語の活用形みたい)を行ったり来たりしながら、ちゃんと話の辻褄もまとめてあるし。でもねえ、これが70年代?80年代を通じて一番のアメリカ映画かといわれると、ほとんどの映画好きは異論があるのではないですか。
だって、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』って、「粋(いき)」「しゃれ」感に欠けるでしょ? 少し傾向は違うけど、ディズニーランドが、それなりによくできてはいるけれど、「粋」「しゃれ」感に欠けるのと共通するところがあると思うのです。
主人公マーティ(マイケル・J・フォックス)が、タイムスリップした50年代のハイスクールのダンスパーティーで、ステージ上のバンドに飛入りしてエレキギターでチャック・ベリーの『ジョニー・ビー・グッド』を演奏し始めたら、バンド・リーダーの「なんとかベリー」氏がその曲のあまりの斬新さに驚愕し、いとこの「チャック」に電話して「今こんなすごい曲を弾いているやつがいるぞ」と教える場面なんて、このネタを考えたご本人はさぞかし気の利いたしゃれのつもりなのでしょうが、おもしろくもなんともない。
だいたいスピルバーグって、お説教くさくて、今いちじゃありませんか? 『インディージョーンズ 最後の聖戦』での関係が断絶した父と息子の対立と心の絆の復活だなんて、ほんと「ほっといてくれ」って感じです。
でもまあ、考えてみれば「評価の高い」でも「よかった」でもなく、「好きな」アメリカ映画のランキングだから、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』なんだと理解できなくはないか。
私の一番は、『天国から来たチャンピオン』(監督ウォーレン・ビューティとバック・ヘンリー、1978年)と『天国の門』(監督マイケル・チミノ、1980年)です。なお、どちらもタイトルに「天国」が付いているのは単なる偶然です。
『天国から来たチャンピオン』は、ウォーレン・ビューティが、実生活で別れることになってしまった(元)恋人ジュリー・クリスティーのために、彼女をヒロインにし、元々はボクシングの話だった昔の映画を自分の得意なフットボールの話に作り替えて、自らが主演・監督をしてリメイクしたという、それだけで粋・しゃれ感たっぷりの映画です。ラストが少しせつないのは、実生活を反映しているから?
『天国の門』は、『ディア・ハンター』でアカデミー作品賞と監督賞を受賞したマイケル・チミノが、西部開拓時代のアメリカ・ワイオミング州で、支配層の牧場主と州政府が、増え続けて邪魔になっていた東欧系移民を超法規的に大虐殺したジョンソン郡戦争を題材にして、大金を投じて撮った、とっても重たく暗い映画です。公開時にはアメリカで批評家の総すかんを食い興行的にも大コケして、そのおかげで伝統ある映画会社を倒産させたといういわくつきの映画です。公開時に見て、ああこれなら総すかんを食ったのもわかるなと思った記憶があります。アメリカの支配層が一番触れられたくない都合の悪い部分をリアルに描いていたからです(同じことを日本でやったら、わかるでしょ?)。
ところで、12月14日から、製作40周年記念で『ディア・ハンター』の4Kデジタル修復版が劇場公開されています。これはもう何が何でも見に行かないと。