弁護士法人 小野総合法律事務所 ONO SOGO LEGAL PROFESSION CORPORATION

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2021/10/17 【所有者不明土地問題等に関する法律改正】

弁護士 67期 山 本 慎太郎

1 はじめに


  令和3年4月21日,「民法等の一部を改正する法律」及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が成立しました(以下「改正法」)。改正法は,所有者不明土地の発生予防と利用の円滑化の両面から,民事基本法制の見直しを行うものです。




2 所有者不明土地とは


  所有者不明土地とは,土地の所有者が死亡しても相続登記がされないことなどを原因として不動産登記簿等により所有者が直ちに判明せず,又は,判明しても,その所在が不明で連絡がつかない土地です(国交省の調査によると,調査対象約63万筆の土地のうち,約22パーセントが所有者不明土地とのことです)。

  上記の弊害としては,土地の利活用が阻害されるほか,土地の管理不全化による隣接地への悪影響があります。高齢化社会の下では,当該問題が加速するおそれもあり,早急な対策が必要と考えられています。



3 改正法の概要


  改正法では,上記問題を踏まえ,概要,1)不動産登記の促進を図るための登記制度の見直し,2)土地を手放すための制度の創設,3)土地利用に関する民法規律の見直しを行っています。以下,その一部を紹介します。




4 1)不動産登記制度の見直し


 (1) 相続登記の申請義務化(相続人申告登記の新設) 

  ア 現行法では,権利に関する登記につき,登記申請義務はありません。もっとも,改正法の下では,相続又は遺贈により所有権を取得した相続人に対して3年以内の登記申請義務が課せられ(改正不登法76条の2第1項),正当な理由がなくこれを怠ったときは,10万円以下の過料に処せられます(同164条第1項)。

  なお,施行日より前に所有権の登記名義人について相続の開始があったときにも遡及適用されるので,注意が必要です(附則5条6項)。

  イ 他方,上記登記の負担軽減のため,所有権移転登記を申請する義務を負う者が,登記官に対し,所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨の申出を行うことで,相続登記を履行したものとみなす相続人申告登記制度も創設されました(同76条の3第1項,2項)。同制度では,申出人は登記官に対して法定相続人の一人であることがわかる限度での戸籍謄抄本を提供すれば足りること等が予定されています。

 (2) 所有不動産記録証明制度の創設

  不動産登記は不動産単位で編成されるため,特定の個人が所有権の登記名義人となっている不動産を網羅的に抽出するための仕組みはありませんでした。改正法では,自己又は自己の被相続人となる者を登記名義人とする不動産の登記記録の交付を請求できる制度(所有不動産記録証明制度)が創設されました(同119条の2第1項,2項)。

  現行法の下では,被相続人の所有する不動産の調査が必要な場合,被相続人の固定資産評価証明書や,自治体の名寄帳が活用されていましたが,今後は本制度の活用も見込まれます。

 (3) 登記名義人の死亡等の事実の公示

  現行法の下では,相続登記等の申請がない限り,登記所が登記名義人の死亡等の事実を把握することが困難でした。改正法の下では,登記所が住基ネット等から所有権の登記名義人の死亡情報等を把握するための仕組みを設けることを前提に,登記官は,所有権の登記名義人の死亡等の情報を取得した場合,職権で死亡等を示す符号を表示することが可能とされています(同76条の4)。

 (4) 住所変更登記の義務化

  改正法の下では,所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったときは,その変更日から2年以内に,当該変更の登記を申請する必要があり(同76条の5),正当な理由がなくこれを怠ったときは,5万円以下の過料に処せられます(同164条2項)。




5 2)土地を手放すための制度(相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律)


  従前は土地を手放すための制度はありませんでしたが,新たに相続又は遺贈により取得した土地を手放して国家に帰属させることを可能とする制度が創設されました。

  ただし,土壌汚染のある土地や,権利関係に争いがある土地など管理に支障のある土地は対象外とされるほか,審査手数料のほか,一定基準の下で算出した10年分の土地管理費相当額の負担金を納付する必要があります。

  従前,相続したものの,売却ができない土地については,第三者への贈与を模索する例もありましたが,今後は本制度の活用も期待されます。




6 3)土地利用に関する民法規律の見直し


 (1) 土地・建物の管理制度の創設

  ア 所有者不明土地・建物管理制度

  現行法では,所有者不明の土地は不在者財産管理人制度,相続人のあることが明らかではない土地は相続財産管理人制度によって管理がされてきましたが,これらは財産全般を管理する制度であるため,管理に伴う費用負担が過大になる(例えば,相続財産管理人の選任には100万円程度の予納金を要する)などの問題がありました。

  そこで,効率化・合理化の観点から,新たに特定の不動産に特化した管理制度が創設されました(民法264条の2,264条の8)。具体的費用は今後の運用に委ねられているため,注視が必要ですが,従前より安価に所有者不明の土地・建物の処理が可能になることが期待されます。

  イ 管理不全土地・建物管理制度

    また,土地・建物の所有者等が明らかであっても,現に適切に管理されずに周囲に悪影響を及ぼす事態もあるため,このような管理不全土地・建物を対象とする管理制度も創設されました(同264条の9,264条の14)。

 (2) 遺産分割長期未了状態への対応

  改正法では,相続開始から10年を経過した後にする遺産分割について,基本的に寄与分や特別受益は考慮されない制度となりました(同904条の3)。今後の遺産分割に重大な影響を与えるものと考えられます。

  なお,本制度は,施行日前に相続が開始した場合にも遡及適用されますので,留意が必要です(具体的には,相続開始から10年を経過する時又は施行の時から5年を経過する時のいずれか遅い時には,寄与分や特別受益の主張ができなくなります。改正法附則3条)。

 (3) 隣地等の利用・管理の円滑化

  現行法では,電気,ガス等の現代的なライフラインの設置に関して,他人の土地を使用するための直接の制度はありませんでした。

  改正法では,土地の所有者は,電気,ガス又は水道水の供給等の継続的給付を受けるため,一定要件の下,他の土地に設備を設置し,又は他人が所有する設備を使用することが可能になりました(同213条の2,3)。ライフラインの設置に非協力的な隣地所有者等がいる場合,交渉を有利に進めるための根拠規定になるといえます。




7 最後に


  実務上,所有者不明土地の存在により,土地の利活用までの道のりが険しいという体験をすることも少なくありません。改正法により,所有者不明土地が減少し,土地の利活用が進むことを願うばかりです。