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2014/10/15 いわゆる弁護士会照会について

弁護士 51期 松田 竜太

1 はじめに



  弁護士法第23条の2は、弁護士会が、弁護士からの申出に基づき、公務所または公私の団体に照会して、必要な事項の報告を求めることができると定めています。

  このいわゆる弁護士会照会は、実際に照会を受けた際に、対応に迷う場合も少なくないと思われます。以下において、この制度に関する問題点を簡単にまとめてみることにします。


2 弁護士会照会を受けた場合、報告(回答)する義務があるか


  弁護士法第23条の2第2項は、「弁護士会は…報告を求めることができる。」と規定するだけで、照会を受けた者が報告する義務を負うとは定めていません。また、報告を拒絶した場合に、その制裁を定めた法律上の規定もありません。

  そのため、弁護士会照会を受けたとしても、そもそも報告する義務がないようにも思えるのですが、そうではありません。

  弁護士会照会への報告拒絶が問題となった裁判例では、弁護士の職務に公共的性格が認められることや、照会制度の適正な運用を図るために、個々の弁護士ではなく弁護士会に照会権限が与えられていること等から、照会を受けた者には、弁護士会に対して報告をする法律上の義務があるとされています。



3 報告義務に例外はないのか



  弁護士会照会に対する報告義務があるといっても、照会の対象が第三者のプライバシーに関する事項である場合や、照会を受けた者が守秘義務を負う事項である場合にも、報告をしなければならないのでしょうか。

  この点に関し、裁判例では、弁護士会照会を受けた者は、報告しないことについて正当な理由がある場合、報告を拒絶できるという考え方が一般的であるといえます。

  ただし、どのような場合に正当な理由があり、報告を拒絶できるのかについては、裁判例によって異なる考え方が示されており、統一的な判断基準が確立されているとはいえない状況にあります。

  そして、裁判例の中には、弁護士会照会を受けた者が報告を拒絶したことについて、正当な理由のない拒絶であり、照会に対する報告義務に違反すると判断したものもあります。



4 報告義務に違反した場合、損害賠償義務を負うのか



  それでは、弁護士会照会を受けた者は、正当な理由なく報告を拒絶した場合、これによる損害を賠償する義務を負うのでしょうか。

  弁護士会照会への報告拒絶が問題となった裁判例では、弁護士会に照会の申出をした弁護士や、その弁護士に事件処理を委任した依頼者が、報告を拒絶した者に損害賠償を請求しています。

  しかし、前述のとおり、弁護士会照会を受けた者は、弁護士会に対して報告義務を負うとされているのであり、照会を受けた者が義務を負っている相手は、あくまで弁護士会です。したがって、正当な理由なく報告を拒絶したとしても、照会の申出をした弁護士や、その依頼者に対する義務に違反したことにはならず、弁護士や依頼者が損害賠償を請求できることにはならないように思えます。

  そこで、実際の裁判例ではどのような判断がされているかというと、上記で述べたように、報告義務が弁護士会に対する義務であることを理由に、弁護士や依頼者は損害賠償を請求できないとしたものがあります。

  ところが、その一方で、弁護士や依頼者も損害賠償を請求する余地があるとした裁判例もあり、その中には、結論としては、過失や損害の発生といった他の要件を欠くことを理由に請求を否定したものと、結論的にも請求を認めたものが存在します。

  弁護士や依頼者による請求の可能性を認める裁判例は、その理由として、照会への報告義務が弁護士会に対する義務であることは認めつつ、弁護士会照会の制度を利用して情報を得ることにより、権利を実現したり、法的な利益を受けたりする実質的な主体が、照会の申出をした弁護士であり、ひいてはその依頼者であることを指摘しています。



5 おわりに



  以上のとおり、これまでに述べた弁護士会照会に関する問題点は、下級審の裁判例の見解が分かれており、また、最高裁判例によって考え方が統一されているわけでもありません。

  今後、裁判例の蓄積や、最高裁の判断によって、弁護士会照会を受けた際の対応がより明確になることが望まれます。