2015/09/16 もし独占禁止法に違反してしまったら?・課徴金制度と課徴金減免制度・
弁護士 64期 多 田 幸 生
昨今、カルテルや入札談合等を理由とする課徴金納付命令のニュースをしばしば耳にします。課徴金はときに百億円以上もの巨額になることがあります。
その一方で、同じニュースの片隅に「A社はカルテルを事前に申告したため、課徴金納付命令を受けなかった。」などと書かれていたりもします。
なぜ課徴金は百億円以上もの巨額になるのでしょうか?また、課徴金納付命令を免れた会社は、どのような事前申告を行っているのでしょうか?
本稿では、課徴金制度と課徴金減免制度について概括していきたいと思います。
1 課徴金制度とは?
課徴金制度は、独占禁止法に違反する行為が行われたときに、違反行為による経済的利得を課徴金として国庫に納付させることにより、違反行為者に不当な利得を保持させず、独占禁止法の禁止の実効性を確保する制度です。
独占禁止法違反の行為のうち、不当な取引制限、私的独占、不公正な取引方法の一部(共同の取引拒絶、差別対価、不当廉売、再販売価格の拘束、優越的地位の濫用)等については、課徴金を課される可能性があります。
いわゆるカルテルや入札談合等は、「不当な取引制限」として課徴金を課されることになります。
2 課徴金の計算方法は?
課徴金の計算方法はとても複雑ですが、違反行為者に経済的利得を保持させない、という課徴金制度の趣旨から、原則的な計算方法は次のようなものになっています。
1)まず違反行為の「実行期間」を確定し、
2)その実行期間中の「売上額」を確定し、
3)違反会社に適用される「算定率」を確定し、
4)最後に、実行期間中の売上額に算定率を乗じる。
「算定率」は業種や違反行為により異なります。不当な取引制限(カルテルや入札談合等)の場合、製造業者は10%、小売業者は3%、卸売業者は2%が原則です。
例えば、ある製造業者が、年間売上200億円の製品について、5年間のカルテルを認定されてしまった場合、課徴金は100億円となります。
課徴金の金額=200億円×5年間×10%=100億円
課徴金の金額が驚くほど高額になることがあるのは、このような計算方法のためです。
3 課徴金減免制度とは?
課徴金減免制度(リーニエンシー制度ともいいます。)とは、事業者が自らのカルテル・入札談合等を公正取引員会に自主的に報告した場合に、課徴金を減免される制度です。
課徴金の減免を受けるためには、公正取引員会による調査開始日より前に、公正取引委員会に対し、「違反行為に係る事実の報告及び資料の提出」(後述)を行う必要があります。
一番目の報告者は、課徴金を全額免除されます。
二番目の報告者は、課徴金を50%減額されます。
三番目から五番目の報告者は、課徴金を30%減額されます(ただし四番目と五番目の事業者は、公正取引委員会が把握していない事実を報告した場合に限られます。)。
なお、調査開始日以降であっても、調査委開始日から20日以内に報告及び資料提出を行うことにより、課徴金を30%減額される場合があります。
4 「違反行為に係る事実の報告及び資料の提出」とは?
(1)まず、公正取引委員会所定の様式(ホームページにPDFファイルが掲載されています。)による報告書を作成し、報告専用のFAX番号に送信しなければなりません。
このFAXの着順により、課徴金減免のための仮順位が決定されます。
(2)上記FAXを送信すると、公正取引委員会から、より詳細な報告書及び資料の提出期限(2週間程度)が通知されます。
そこで、詳細な報告書を作成し、提出すべき資料を整えて、提出期限までに公正取引委員会にこれらを提出すれば、仮順位が本順位として確定します。この提出は、持参、郵便、FAXのいずれでもかまいません。
5 最後に
巨額の課徴金は大きな経営リスクです。例えば、従前から続けてきた取引であっても、適法性について安易に考えず、改めて、独占禁止法に触れないかを再点検してみても良いかもしれません。
万一、課徴金減免制度を利用することとなった場合には、公正取引委員会への報告等には至急を要しますので、弊事務所にご相談いただきますようお勧めいたします。