2014/12/17 クレームへの対応について
弁護士 58期 松 村 寧 雄
1 はじめに
およそ営利活動をしている事業体であれば,対顧客との関係において,クレームを受けることは避けられません。製造業,小売業であれば,商品の瑕疵に対するクレームが代表的なものですし,サービス業であれば,サービスへのクレームもあるでしょう。
クレームの発生が不可避であるとすれば,どのように対応するかを考えておかなければ,本来の営利活動に支障が生じかねません。当職らにとっても,ご相談いただく機会が多いこのクレーム対応ですが,一般的な対応の方法について触れてみたいと思います。
2 クレーム対応の基本的な考え方
クレーム対応において最も基本となる考え方は,クレーム発生当初の段階において,法的に理由のあるクレームか,理由のないクレームかの区別をつけるということです。この区別をつけることにより,その後の対応方針を決めることができます。
そのためには事実関係の調査が必要ですが,いわゆる5W1Hなどの必要な事実関係を網羅できるよう,電話聞き取りメモなどを予めフォーマット化しておくことや,対応マニュアルを作成しておくことなど,クレームが発生した場合でも冷静に対応できる態勢を整えておくことが有用です。クレーム発生直後ですので,相手方が激高しているような場合も多々あるとは思いますが,対応する側が冷静に対処し,まずは相手方の言わんとすることをよく聞いて,事実を調査することが何より重要です。
3 法的に理由のあるクレームへの対応
上記の調査の結果,相手方のクレームに法的な理由がある=こちら側に問題があると判断したら,次は,相手方や関係者からのさらなる事情聴取や損害賠償に備えて,損害額の検討を行いましょう。その上で,相手方との交渉を行うという手順を踏むのが一般的でしょう。
この場合には,クレームに法的に理由がある以上,こちら側から何をどのように賠償するのかがポイントです。ただし,注意すべき点は,相手方の要求がエスカレートする場合には,任意交渉を打ち切ることも考えておかなければならないということです。立場が強いと判断した場合には,どんな人物であったにせよ,要求がエスカレートすることはよくある現象です。この場合には,裁判での解決を視野に入れることも必要でしょう。仮に裁判となった場合であっても,損害額の算定においてある程度見通しが立っているはずですから,負わなければならないリスクも想定できることからすれば,過大な要求に安易に応ずる必要はなく,裁判自体を避けなくとも良いのです。
4 法的に理由のないクレームへの対応
反対に,法的に理由のないクレームであることが明らかになった場合には,対応方針としては,基本的には,拒否,拒絶するだけです。
ただし,この場合には,相手方もクレームに法的な理由がないことをわかっているケースが多く,意外と対応に手間取ることがあります。対策としては,円満解決などを考えた曖昧な対応をしないことが重要です。相手方は,こちら側の不用意な発言などを理由に,当初のクレームとは全く異なる点をクレームの対象とすることがあるので(ある意味,本来の意味でのクレーマーはこれを狙っている),対応においては,細心の注意を払うことが必要です。
最終的に折り合いが付かなければ,交渉の終了を宣言し,突き放してしまうことも解決策の一つです。円満な解決に固執しなくとも良いのです。
5 異常なクレーマーへの対応
上記3,4のいずれの場合にも,反社会的勢力を背景としたクレーマーや脅迫,恐喝行為を伴うクレーマーも存在します。
基本的な対応策としては,上記3,4のとおりではありますが,このような場合には,早期に弁護士への対応を依頼することが解決の近道です。また,方法論として,実際の交渉においては,電話であれば録音すべきですし,直接対面しなければならない場合には,複数人での対応が鉄則です。録音,録画の方法も併用すると良いでしょう。
犯罪に該当するような行為が予想される場合には,警察への対応依頼も視野に入れておくべきです。
6 最後に
上記の記載と矛盾するようではありますが,忘れてはいけないのは,クレームそのものはこちら側の至らない点についての有り難い指摘でもある点です。実際は,不都合があったとしてもクレームも言わずに去って行く顧客がほとんどです。クレームがあることにより,よりよい商品作り,サービスの構築につながる情報を得られることもあります。クレームを活かすという意味で,クレーム対策を本格的に取り組まれてはいかがでしょうか。