2015/06/17 パロディと著作権法との関係
弁護士 60期 小池 孝史
1 はじめに
キャラクター,写真,画像などを風刺や批判などの目的で利用する場合のほか,替え歌,モノマネ,漫画・アニメ・ゲームの二次創作同人誌など,いわゆるパロディとして著作物を利用する行為については,著作権法上,これを積極的に許容する規定(すなわち,著作権法上の権利を制限する規定)はないものの,権利制限の対象とすることが必要ではないか等といった指摘がなされております。
パロディは,その内容如何によっては,著作権法以外にも,商標法や不正競争防止法のほか(例えば,「白い恋人」対「面白い恋人」の事件),パブリシティ権も問題となり得ますが,本稿では,パロディと著作権法との関係をテーマにしたいと思います。
2 著作権法上の問題点及び裁判例の状況等
(1)パロディは,既存著作物を自己の作品(著作物も含まれますが,これに限りません。)において何らかの形で利用するものであることから,そのような利用行為は,既存著作物の「変形」あるいは「翻案」に当たるものとして,著作権者の権利の一つである翻案権(著作権法27条)を侵害する可能性があり,また,著作者の意に反して,既存著作物の「変更,切除その他の改変」を行う行為であるとして,著作者人格権の一つである同一性保持権(著作権法20条1項)を侵害する可能性もあります。
(2)この点に関し,パロディと著作権法との関係が問題となった重要な判例として,最高裁判所昭和55年3月28日判決(モンタージュ写真事件)があります。
モンタージュ写真事件は,写真家Aが撮影した写真(雪山の斜面をスキーヤーが波上のシュプールを描きつつ滑降している写真(以下「本件写真」といいます。))について,その一部を切除したうえで,シュプールの上部分にスノータイヤの写真を配して映像を合成したモンタージュ写真(白黒写真)を作成し公表したことについて,本件写真の著作者であるAの同一性保持権侵害となるか否か,換言すれば,モンタージュ写真として利用する行為が引用(ただし,旧著作権法)に当たるか否かが問題となった事件です。
最高裁判所は,モンタージュ写真事件において,引用について,引用される側の著作物の著作者人格権を侵害するような態様によるものは許されないとしたうえで,本件写真を改変して利用することによりモンタージュ写真を作成して発行した場合において,当該モンタージュ写真から本件写真における本質的な特徴自体を直接感得することができるので,当該モンタージュ写真を一個の著作物とみることができるとしても,その作成発行は,Aの同意がない限り,Aの(著作者人格権の一つである)同一性保持権を侵害すると判示しました。
(3)上記最高裁判所判決からも明らかなとおり,日本の著作権法では,パロディ作品であることに対して特別な扱いを行うことなく,著作権侵害(著作者人格権侵害)となるか否かを判断していることを確認することができます。
(4)他方,諸外国を検討すると,例えば,アメリカの場合には,パロディについても,著作権法上のフェア・ユース(著作権者の許諾なく著作物を利用しても,その利用が一定の判断基準のもとで公正な利用(フェア・ユース)に該当するものと評価されれば,その利用行為は著作権の侵害にあたらないとする規定)に該当すれば,著作権侵害が否定されているようです。
3 立法改正等の動き
以上を踏まえ,文化庁長官の諮問機関として,文化審議会著作権分科会に設置されている法制問題小委員会パロディワーキングチームにおいて,パロディと著作権法の関係について検討が行われ,平成25年3月に報告書を公表しました。
上記報告書によると,日本の現状(業界の長年にわたる慣行や権利者の暗黙によるパロディの許容が幅広く行われていること)などを踏まえると,現時点では立法による課題の解決よりも,現行著作権法による解釈ないし運用により,より弾力的で柔軟な対応を図る方策を促進することが求められているものと評価することができるが,新たな裁判例や学説のほかに,諸外国の動向(特にこれまでパロディを許容する明文規定を定めていなかったイギリスが立法に向けて検討を行っているなど)などを注視する必要があるとのことでした。
上記報告書の内容を踏まえると,パロディを許容する方向での著作権法改正が行われることは,現時点ではあまり考えられません。
しかしながら,上記報告書でも指摘されているとおり,デジタル・ネットワーク社会において著作物の利用形態が急速に変化していることから(動画投稿サイトへの動画投稿など),パロディを許容するため,著作権法上の権利制限規定を設ける方向で議論が再燃するとも限りませんので,今後もパロディに関する動向に注視したいと思います。