弁護士法人 小野総合法律事務所 ONO SOGO LEGAL PROFESSION CORPORATION

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2018/11/15 ー団体交渉についてー

弁護士 52期 佐 野 正 樹


1 団体交渉とは何か




  団体交渉とは,労働組合法上の要件を満たす労働組合が組合員の利益を代表して使用者(会社)と行う交渉のことをいいます。

  団体交渉を行うことは憲法で労働者(従業員)の権利として認められており,これを受けて,労働組合法では,会社が正当な理由なく団体交渉を拒否することを不当労働行為として禁止しています。

  団体交渉は,労働者が会社との交渉で対等の立場に立つことを促進することによって,労働者の地位を向上させ,労働条件について会社と労働者との関係を規制する労働協約を締結するための手段として用いられますので,団体交渉では,人事を含めた労働条件が交渉事項になります。





2 団体交渉を要求された場合




(1)労働組合から団体交渉の申入れがあった場合,会社は,団体交渉を拒否する「正当な理由」がある場合を除き,団体交渉に応じる義務があります。「正当な理由」がないにもかかわらず団体交渉に応じない場合,不当労働行為として違法です。

(2)なお,団体交渉を拒否することが許される「正当な理由」が認められる場合としては,例えば,以下のケースが考えられます。

  ア 団体交渉を申し込んできた組織が,労働組合法上の労働組合の要件を満たさない場合

    なお,この点に関連して,労働者が所属する職場や雇用形態に関係なく,産業別,業種別,職業別,地域別に組織される会社外の合同労働組合に加入して団体交渉を求めてくるケースがあり(実務的には,むしろこのケースが多いと思います。),(その合同労働組合が労働組合としての適格性を有する限り)このケースについても会社は団体交渉に応じなければなりません。

  イ 会社が,交渉事項に係る労働者の使用者でない場合(子会社の労働者が親会社に団体交渉を申し入れた場合など)

  ウ 労働組合側の交渉担当者に交渉権限がない場合

  エ 労働条件と関係がない事項について交渉要求があった場合

  オ 団体交渉を行うには不適当な日時や場所を指定された場合

  カ 不当に長時間の団体交渉を強要された場合

  キ 労働組合側の交渉担当者の人数が多過ぎる場合

  ク 団体交渉の席上,労働組合側の交渉担当者が会社に対して暴言を続けるなど,正常な話し合いをすることが期待できない場合

  ケ 団体交渉が頻繁に開催され,会社の業務が停滞するような場合






3 団体交渉時の会社としての留意事項




(1)出席者


  必ずしも社長や取締役が出席する必要はなく,労働条件について決定できる権限を有する労働者(例えば,人事部長)が出席すればそれで構いません。

  また,弁護士に委任して,会社の代理人として一緒に出席して貰うことも,もちろん構いません。


(2)交渉場所


   交渉場所は,会社と労働組合の協議で会社内の施設以外の場所とすることは,もちろん構いません。

   ただし,労働組合の施設とすることは,交渉時間が際限なく延びてしまう可能性等もあるため,極力避けた方がよいでしょう。


(3)日時


   労働組合からは,勤務時間内に団体交渉の場を設けるよう求めてくることが多いと思いますが,必ずしも勤務時間内にこれに応じる必要,義務はありません。


(4)交渉内容の記録


   団体交渉ではプロセスが重要になることも多いので,複数名で団体交渉に臨み,メモ係を決めておくなどして,できる限り詳細に記録しておくべきです。


(5)発言者


   団体交渉の場では,主に発言する者を1人決めておき,他の者は,その発言者が応答に詰まって助けを求めた場合などに,保佐する等の対応がよいでしょう。


(6)資料の提出


   労働組合から会社に資料の提出を求めてくる場合がありますが,営業秘密などの情報が記載されている資料などは提出すべきではありません。

   ただし,提出を求められた資料の全部を拒否すると,団体交渉に当たって不誠実な対応をしたとの誹りを受け,不当労働行為に該当してしまう可能性がありますので,交渉事項に関する説明のため必要な限度では資料を提出するように心掛けるとともに,提出しない資料は,提出しない合理的理由をきちんと説明すべきです。


(7)議事録への署名


   交渉の過程で,労働組合から議事録への署名を求められる場合がありますが,署名をすると,議事録の内容が労働協約として成立してしまうおそれがあります。
そのため,その場で直ちに署名するのではなく,(持ち帰るなどして)それに署名しても問題にならないか否かを十分確認検討したうえで,対応すべきです。


(8)誠実対応義務


   会社としては,交渉事項について仮に話し合いの余地がないと思われる場合でも誠実に対応する義務があります。すなわち,自らの主張の根拠を具体的に説明し,必要な資料があればこれを提示するなどの対応を取るべきことになります。

   もっとも,会社は,団体交渉において誠実な対応を取れば足り,意に反して合意したり,譲歩したりするような義務は,もちろんありません。

   団体交渉で労働組合から出された要求にその場で回答する必要はなく,持ち帰って検討すれば足りますし,また,誠実な交渉を行ったにもかかわらず,交渉が平行線を辿るような場合には,もとより団体交渉を打ち切っても構いません。