2016/11/16 ー譲渡制限株式の譲渡等承認請求についてー
弁護士52期 佐 野 正 樹
1 譲渡制限株式
株式会社(以下,単に「会社」といいます。)の定款上,会社が発行する株式を譲渡により取得する場合に会社の承認を要する旨を定めている株式のことです(会社法第2条第17号)。なお,その承認を行う会社の機関(以下,「承認機関」といいます。)は,会社が取締役会非設置会社であれば株主総会,取締役会設置会社であれば取締役会になります(第139条第1項。ただし,取締役会設置会社であっても,定款で承認機関を株主総会と定めた場合は,株主総会です。)。
2 譲渡等承認請求手続
(1) 株主が保有する譲渡制限株式(以下,「対象株式」といいます。)を他人(対象株式の発行体である会社を除きます。)に譲り渡そうとする場合,会社に対して,その譲り渡そうとする株式数,および譲受人の氏名・名称を明示して譲渡を承認するか否かの決定を請求することができます(第136条,第138条)。また,株式取得者も,原則として株主またはその一般承継人と共同して,会社に対して,同様の請求をすることができます(第137条,第138条)。
(2)上記(1)の請求に際しては,これと併せて,仮に会社が対象株式の譲渡を承認しない旨の決定をする場合,会社または指定買取人が対象株式を買い取るべきことを請求することができます(第138条)。
(3)会社は,上記(1)の請求を受けたときから2週間以内(定款でこれより短い期間を定めていればその期間内)に,承認機関でその請求を承認するか否かの決議を行い,かつその決議内容を上記(1)の請求を行った者(以下,「承認請求者」といいます。)に通知しなければなりません(第145条,第139条)。
(4)上記(1)の請求と併せて,上記(2)の請求がされている場合において,会社が対象株式の譲渡を承認しない旨を決定した場合には,承認機関は,会社が対象株式を買い取るか,買取人を指定するかを併せて決定しなければなりません(第140条。なお,会社および指定買取人が対象株式の一部ずつを買い取る旨を決定することもできますが,両者併せて対象株式の全部を買い取らなければなりません。)。
(5)上記(4)の場合,会社が対象株式を買い取るときは40日以内(定款でこれより短い期間を定めていればその期間内),指定買取人が対象株式を買い取るときは10日以内(定款でこれより短い期間を定めていればその期間内)に,その旨および買い取ろうとする株式数を承認請求者に通知するとともに,対象株式の1株当たり純資産額に株式数を乗じた金額を法務局に供託し,当該供託を証する書面を承認請求者に交付しなければなりません(第145条,第141条,第142条)。
(6)上記(5)で対象株式について株券が発行されている場合,承認請求者は,当該供託を証する書面の交付を受けた日から1週間以内に,株券を供託するとともに,その旨を遅滞なく,上記(5)の供託を行った会社または指定買取人に通知しなければなりません(第141条,第142条。なお,承認請求者がその期間内に株券の供託をしなかったときは,上記(5)の供託を行った会社または指定買取人は,対象株式の売買契約を解除することができます。)。
(7)なお,上記(3)の期間内に上記(3)の通知がされなかった場合,上記(5)の期間内に上記(5)の通知がされなかった場合,上記(5)の期間内に上記(5)の当該供託を証明する書面の交付がされなかった場合,および承認請求者から会社または指定買取人との対象株式の売買契約を解除した場合には,会社と承認請求者の合意により別段の定めが成立しない限り,会社は,上記(1)の請求を承認したものとみなされます(第145条,会社法施行規則第26条)。
3 売買価格の決定
(1)会社または指定買取人が上記2(5)の通知および当該供託を証する書面の交付をしたときは,その通知の日から20日以内に,承認請求者との協議によって,対象株式の売買価格を定めるものとします(第144条第1項,第7項)。
(2)会社もしくは指定買取人または承認請求者は,上記(1)の20日以内に,裁判所に対して,売買価格の決定の申立てを行うことができます。この場合,上記2(1)の請求時の会社の資産状態その他一切の事情を考慮して裁判所が決定した額が,対象株式の売買価格となります(第144条第2項ないし第4項,第7項)。
(3)なお,上記(1)の20日以内に,会社または指定買取人と承認請求者の間で(1)の協議による合意が成立せず,かつ上記(2)の売買価格の決定の申立てもされていない場合には,上記2(5)の供託金額が,対象株式の売買価格となります(第144条第5項,第7項)。