2020/10/16 一事業承継について一
弁護士52期 佐野正樹
1 事業承継とは
(1) 事業承継とは、会社の経営を現在の経営者から後継者に引き継ぐことです。
この事業承継には、次の2つの側面があり、その両側面での承継が行われないと、完全な事業承継とはなりません。
ア 経営の実態の承継
これは、会社の経営者としての地位を承継することであり、社是、取引関係、顧客関係等を一体として承継するものです。
イ 法律上の承継
これは、会社の所有を表す株式の承継を意味します。
(2) 特に中小企業では、オーナー社長の経営手腕等が会社の強みや存立基盤そのものであることも多く、誰を後継者として会社の経営を引き継ぐかは、極めて重要な経営課題になります。
2 事業承継の困難さ
中小企業では、特に次のような点が顕著なことがあり、事業承継に困難を生じることが多くあります。
(1) 株価の高さ
業績のよい中小企業の場合、含み益等が多く、また、安定した顧客を獲得、維持し、長期的に継続して安定した売上げが期待できる場合等であれば、その株価が非常に高額となることがあります。
この場合、株式の生前贈与や売買または相続時の納税等のために多額の資金が必要となり、株式の承継が困難となることが考えられます。
(2) 相続時の問題
中小企業でオーナー社長が亡くなった場合、株式の相続の問題が発生します。
この相続に際しては、上記(1)で述べた相続税の問題のほか、遺産分割の問題があります。すなわち、同族会社の株式もオーナーの相続財産ですので、これを配偶者や複数の子らで法定相続分にしたがって分割した場合など、後継者に株式が集中せず、会社の経営の安定が損なわれる事態も考えられます。
3 事業承継の準備と計画
こういった事業承継の難しさを考えると、事業承継をスムーズに行うためには、用意周到に事前の準備と計画の立案、実行を行うことが必要になります。なお、後継者の育成にかかる期間も考えると、事前の準備と計画の立案、実行には、5年?10年といった長期間をかける必要がある場合もあります。
(1) 会社の現状の把握
事業承継を円滑に進めるうえでは、もっとも適した後継者、承継方法を選択できるようにするために、まずは会社の現状をできる限り正確に把握して、「見える化」する必要があります。
具体的には、会社の経営体制(会社の沿革・事業方針、株主構成、役員構成、従業員の構成、取引先との関係等)や事業内容(会社の業務内容、事業計画、利益の実態、資産や負債の実態等)、財務内容(キャッシュフローの実態、借入金の返済状況、保証・抵当権等)、会社を取り巻く環境変化やそれに伴う経営リスクといった事項をできる限り正確に把握する必要があります
また、経営者個人についての現状把握(株式の保有状況や経営者個人名義の営業用資産の存否・内容、経営者個人からの借入れの存否・内容等、経営者個人による会社のための債務保証等)も必要になります。
(2) 事業承継の準備と計画の立案、実行
ア 上記(1)のとおり把握した会社(と経営者個人)の現状を踏まえて、事業承継を行ううえで、最も適していると思われる後継者、承継方法を選択することになります。
イ 後継者や承継方法を選択する際には、その前段階として、会社の事業の継続性や現在の経営者の意向を踏まえて検討します。
特に事業の継続性に問題がなければ、後継者候補の有無や承継方法ごとのメリットやデメリットを踏まえて、誰を後継者とするか、承継方法として、親族内承継か(親族の中でも子供か子供以外の親族か)、親族以外の会社の役員もしくは従業員か、またはM&Aにより会社を第三者に売却するかを選択します。
なお、いずれの場合でも、如何に株式を後継者となる者に集中させるかが重要になります。
ウ 後継者や事業承継の方法が決定したら、よりよい状態で後継者に事業を引き継ぐため、上記(1)のとおり把握した会社(と経営者個人)の現状を踏まえて、経営課題の改善や今後の経営の方向性を検討し、これに沿った取り組みを進める一方、将来に向けた経営計画や経営ビジョンを作成します。中長期的な経営計画や経営ビジョンを作成したら、これを踏まえて、事業承継に向けた?現在の経営者の行動、?後継者の行動、?会社の行動として何時、何を行うべきか(の予定)を整理、記載した事業承継計画表を作成します。
なお、ここで作成した事業承継計画表は、現在の経営者や後継者以外に、必要に応じて、会社内の一定の役員、従業員との間でも、これを情報として共有します。そのことにより、事業承継による経営者の交代に伴う体制づくりへの理解や協力を得るとともに、事業承継後の信頼関係の維持を図ることにもなります。
4 最後に
いずれにせよ、事業承継の問題は、税務・法務上の様々な問題が絡まり、複雑となることも多くあります。そのため、適宜に応じて、税理士や弁護士の助言等を受けて進めることが必要になります。この点、もちろん当事務所においても対応可能ですので、必要がございましたら、ご用命いただければ幸いです。