2016/01/17 停止条件と不確定期限
弁護士 55期 弁護士 齋 藤 潤一郎
1 介在型取引における支払条件の設定
売買取引等において、 本来は買主と売主が直接取引をするところ、中間にXを介在させて、発注を「買主→X→売主」という流れにし、「買主とXとの間」の契約条件と「Xと売主と の間」の契約条件を同一にし(ただし、Xがサヤを抜く場合には代金額にだけ差をつける)、売買物件等の引渡しは直接売主から買主に対して実施するという取 引が行われることがある。一般的な元請・下請の関係もこれに該当するし、Xが紹介者・仲介者である場合に実質的な紹介料等を得る目的でなされることもある だろう(以下このような取引類型を「介在型取引」という)。
介在型取引において、Xの立場に立った場合、取引に介在して利益を得るだけで、独自に契約上の責任を負いたくないと考えるのが通常である。
このため、「Xと売主との間」の契約におけるXの売主に対する代金支払条件の中には「(買主からの)入金にリンクする」とか「(買主からの)入金後払 い」などと規定することがあるが、取引目的物が売主から買主に引渡された後、買主からXに代金が支払われない場合、この規定によりXは売主に対する代金支 払義務を免れることができるのであろうか。
2 停止条件と不確定期限
この問題は、法律的には、上記の「入金にリンクする」等の条項が、「停止条件か不確定期限か」という形で議論される。
ここで、停止条件とは法律行為の効力の発生を発生するかどうかが不確実な事実にかからしめる法律行為の付款をいい、不確定期限とは法律行為の効力の発生 または債務の履行を、将来発生することが確実であるが、いつ発生するかが不明な事実の発生までは延ばす法律行為の付款とされる。
例えば、「私が死亡したら宝石を譲る」という規定は、「人の死」は将来確実に発生するため不確定期限となり、「あなたが大学に合格したら宝石を譲る」と いう規定は、「大学の合格」は発生不確実な事実であるため停止条件とされる。もっとも、いわゆる「出世払い」に関して、上記の基準だと「出世」は発生不確 実な事実であるため、停止条件となりそうなところであるが、通説は条件ではなく期限であると解しており、結局のところ条件か期限かという判断は、具体的事 案ごとの契約の解釈の問題となってくる。
3 判例
介在型取引における判例としては最高裁判所平成22年10月14日判決がある。この事案は、機器の製造等請負について「施主→A→B→C→D→E→F」 という流れで順次発注され、「EF」間の契約には「入金とリンクする」という条項が入っていたところ、Fによる機器等の引渡後、代金決済前にCが破産し、 EがDから請負代金の支払いを受けられなかったところ、FからEに対して請負代金の請求がなされた事案である(なお、Eはサヤを抜かない前提での取引で あった)。
最高裁は、「入金とリンクする」という条項につき、請負人が仕事を完成し引渡したにも関わらず代金を受けら れないという合意をすることは想定し難いことや、代金決済が順次確実に行われることを予定して契約が締結されたこと等を理由に、当該条項は停止条件ではな く、「Eが請負代金の支払いを受けたときはその時点で(Fに対する)請負代金の支払期限が到来すること、また、Eが請負代金の支払いを受ける見込みがなく なったときはその時点で(Fに対する)請負代金の支払期限が到来すること」が合意されたものと解するのが相当として、不確定期限を定めたものである旨の判 断をした。つまり、DからEに対する請負代金の入金がなかったとしても、EのFに対する請負代金債務は消滅しないとの判断をした(原審は逆に停止条件と判 断し、Fの請求を棄却していた)。
また、「入金後払い」との記載に関して、最高裁平成22年7月20日判決において、契約の趣旨や経緯を考慮したうえで、停止条件ではなく不確定期限である旨の判断がなされている。
4 対応策
以上のとおり、停止条件か不確定期限かといった判断は、契約の趣旨等を総合考慮してなされることから、一律には判断が難しい側面がある。介在型取引で上 記1の「X」の立場に立った場合には、単に入金とリンクする等の記載をするだけではなく、「買主からの入金がなかった場合にはどうなるのか」という点まで 明記することが望ましく、最低限「買主からの入金があることを停止条件として」など停止条件であることを明記することが必要になるであろう。