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2019/11/16 債権法改正による詐害行為取消制度の変更

弁護士 64期 吉 岡 早 月

1.詐害行為取消請求?



  「詐害行為取消請求」という制度をご存知でしょうか。

  これは、「売買代金を支払え」「建物を明け渡せ」などの、契約相手方への契約に従った請求とは異質な請求です。

  例えば、Gさんから100万円を借りたSさんが、返済期限に「お金がなくて返せない。」と言いだしたとします。しかし、Sさんは100万円はする純金製の熊の置物を持っており、これを売れば返済は可能なはずです。Gさんがこの話をしたところ、Sさんは「あれは先日友人のXさんに5万円で売った。」と答えました。XさんはGさんとも知り合いで、GさんがSさんに100万円を貸していることを知っています。Gさんとしては、100万円相当のSさんの財産が5万円と破格の代金でXさんに売られ、その結果Sさんが返済できないと言っていることに納得できません。

  このような場合、一定の要件のもとGはXを相手に訴訟を起こして、SがXに熊の置物を売ったこと(詐害行為)をなかったことにする(取り消す)ことができます。

  このように、詐害行為取消請求は、弁済を不可能にする債務者財産の逸出をなかったことにして、債権の保全を図る制度です。

  2020年4月1日施行の改正債権法では、詐害行為取消請求に関しても改正が加えられていますので、その一部をご紹介します。

  以下では、上の例に1人登場人物を増やして、「GがSに100万円を貸し、Sが唯一のめぼしい資産である熊の置物をAに8万円で売り、AがこれをXに5万円で転売した」という例を前提にします。





2.Aの悪意が必要



  改正前は、「Sの行為が債権者を害すること」=熊の置物を8万円で売ってしまえばSが返済できなくなること=詐害性をXが知っていれば、Aが知らなくとも、GはXに対し詐害行為取消請求ができるとされていました。

  これに対し、改正後は、詐害性をAも知っていることが必要となります。

  こうすると、SとXが共謀して、何も知らないAを間に挟めば、GのXに対する詐害行為取消請求を阻止でき、不当なようにも思えます。そこで、このような場合には、Xは、Aが詐害性を知らないということを信義則上主張できず、詐害行為取消請求は認められると説明されています。





3.Sへの訴訟告知が必要



  詐害行為取消請求では、XやAといった、Sの財産を受領した者を相手に訴訟を起こします。つまり、S自身は訴訟の相手になりません。

  改正後もSは訴訟の相手になりませんが、Sに対して「訴訟告知」という手続をとることが義務付けられました。

  訴訟告知はその名のとおり訴訟の存在を知らせることで、裁判所からS宛に訴訟告知書が送付されます(郵便切手代はGが負担します)。

  これは、次のとおり詐害行為取消請求訴訟の判決の効力がSにも及ぶことになったため、Sの知らないところで判決が出るのはSに酷だと考えられたことによります。





4.訴訟当事者以外との権利関係の整理



  改正前は、GがXに対し詐害行為取消請求訴訟を提起した場合、判決効が及ぶのはXのみとされていました。つまり、裁判所がGの主張を認めると、Xは熊の置物をSに戻す義務を負う一方で、SやAには判決の効力が及びませんでしたし、XやAが支払った売買代金はどうなるのかに関する定めはありませんでした。

  改正後は、判決の効力をSにも及ぼすこととし、AがSに対し代金8万円を返せといえること、XもSに対してAに返すべき代金8万円のうち5万円を自分に渡せといえることを定め、一体的な解決が可能になりました。





5.その他(出訴可能期間の短縮、類型の整理、判例法理の明確化等)



  上記の他、出訴可能期間が財産の逸出時から10年と短縮されたり(改正前は20年)、詐害行為取消請求の類型とその要件を明確化したり(破産手続との関係が意識されています)、逸出財産が金銭や動産である場合の債権者(G)への直接引渡しを認める判例法理が明文化されたり等種々の改正が加えられていますので、詐害行為取消請求を検討する場合には一度改正点をご確認ください。