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2022/04/28 <公益通報者保護法の改正>

弁護士 61期 遠藤直子

※小野総合通信 Vol.74(2022年冬号・2022年2月1日発行)より転載

1 改正の概要

 公益通報者保護法の一部を改正する法律が、2020年6月8日に成立し、同月12日に公布されました。公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されますが、本原稿執筆時点では、施行日は公表されていません(2022年6月1日の施行に向けて準備が進められています)。

 今回の改正は、一部の事業者による重大な法令違反行為の不祥事が後を絶たず、法令違反行為に係る通報に対応する体制が機能不全に陥っているといった指摘がされてきた状況を受けて、公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとることを事業者に義務付けること等を定めるものとなっています。

 改正の内容としては、①事業者自ら不正を是正しやすくするとともに、安心して通報を行いやすくすること(事業者への体制整備の義務付け等)、②行政機関等への通報を行いやすくすること(通報の条件の緩和等)、③通報者がより保護されやすくすること(通報者の範囲に1年以内の退職者や役員を追加、通報に伴う損害賠償責任の免除を追加等)という3つの観点から改正が行われていますが、今回は、①を主に取り上げます。

2 事業者への必要な体制整備の義務付け

 今回の改正により、従業員300人を超える事業者に対し、内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等が義務付けられました。なお、従業員300人以下の事業者は努力義務となっています。

 具体的には、①公益通報を受け、当該公益通報に係る通報対象事実の調査をし、その是正に必要な措置をとる業務に従事する「公益通報対応業務従事者」を設置すること、②公益通報に適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講ずることが必要となり、①②についての指針が示されています。

 ①については、指針において、従事者を定める際には、書面により指定をするなど、従事者の地位に就くことが従事者となる者自身に明らかとなる方法により定めなければならないとされています。

 ②については、指針において、受付窓口の設置、組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置、公益通報対応業務の実施に関する措置、公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置、不利益な取扱いの防止に関する措置、範囲外共有等の防止に関する措置、労働者等に対する教育・周知に関する措置、是正措置等の通知に関する措置、記録の保管、見直し・改善、運用実績の労働者等への開示に関する措置、内部規程の策定及び運用に関する措置を講ずるべきものとされています。なお、指針は、事業者がとるべき措置の個別具体的な内容ではなく、事業者がとるべき措置の大要を示したものであり、個別具体的な内容については、各事業者において主体的に検討すべきものとされています。

3 行政措置の導入

 上記2の事業者の体制整備の義務の履行の実効性を確保するため、内閣総理大臣は、事業者に対して、報告を求め、又は助言、指導、勧告をすることができ、事業者が勧告に従わなかった場合には、その旨を公表することができることとされました。また、事業者が報告をしなかった場合又は虚偽の報告を行った場合には、20万円以下の過料に処されることとなりました。

4 公益通報業務従事者の守秘義務

 公益通報者が安心して通報を行いやすくするため、従事者又は従事者であった者は、正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならず、違反した場合には、30万円以下の罰金に処されることとなりました。

5 最後に

 今回の改正に当たって、指針が公表され、事業者がとるべき措置の大要が示されていますので、自社の通報制度が指針に沿った内容となっているかご確認いただき、必要に応じて、制度の見直し等の対策を行っていただければと存じます。