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2013/05/15 労働審判

弁護士 52期 田端 友貴

1 労働審判手続とは

  労働審判手続をよく御存じない方もいらっしゃると思いますので、まず簡単に説明しましょう。

  労働審判手続は、平成18年4月1日の労働審判法の施行によりスタートした制度です。解雇や未払賃金の問題など、個々の労働者と事業者との労働紛争を対象とし、労働審判官(裁判官)1名と労働関係の専門的な知識と経験を有する労働審判員2名で組織された労働審判委員会が、原則として3回以内の期日で審理を行います。通常、まず調停が行われ、調停による解決ができない場合には審判がなされます。

  労働審判手続の特徴としては、よく、?迅速性、?専門性、?柔軟性が挙げられますが、今回は「迅速性」について話をしてみたいと思います。


2 どのくらい速いのか

  労働審判手続が原則として3回以内の期日で行われることは先程述べたとおりです。その平均審理期間は約73日と言われています。

  裁判所のHPに掲載の「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」によると、平成16年のデータで労働関係訴訟の平均審理期間は11.5カ月とのことですので、労働審判手続の方がはるかに速いことが分かります。

  ただ、これは見方を変えると、事件の結論が出るまでに時間がないということでもあります。どういうことなのか、少し詳しく見ていきましょう。


3 実際には第3回期日まで使えない

  平成21年       74.2%
  平成22年       77.2%
  平成23年8月末現在  80.4%

  これは、横浜地方裁判所における労働審判事件の調停成立率のデータです。ほとんどの事件で調停が成立していることが分かります。これだけ高い率で調停が成立するわけですから、第3回期日の前、つまり第2回期日の終了時までに、ある程度の調停が試みられ、具体的な調停案の提示まで進んでいるであろうことが分かると思います。

  実際、多くの案件で、第1回期日の後半にはもう調停成立に向けた説得が行われます。第2回期日までに審判が言い渡される案件も多く、労働審判委員会は第1回期日時点である程度心証を固めてしまっていると考えておくべきです。

  第2回期は調停に向けた説得と成否の見極めが行われることになり、そこで準備不足や流れを挽回することは、実際上難しいと思われます。

  つまり、労働審判手続が3回以内の期日で行われると言っても、実際には第1回期日までの準備が重要であり、これが調停・審判の流れを決めてしまうのです。


4 第1回期日までにすべて準備することは大変です

  労働審判手続の第1回期日は、通常、申立から40日以内の日に指定されます。もっとも、事業者側に申立書等が送達されるまでの期間や、その後弁護士のもとに相談に行くまでの期間、そして答弁書等の提出期限などを考えると、実際の準備期間が40日もあるわけではありません。

  あらかじめ相談を受けていた場合はまだ良いのですが、労働審判の申立を受けて初めて相談を受ける場合だと、1から準備を進めなければなりません。労働者提出の申立書や証拠を精査し、事業者側の関係者から事情を聴取し、必要な資料を揃えた上で、答弁書や関係者の陳述書を作成し、証拠として提出すべき書類の整理をし、さらに労働者からの反論等もあらかじめ想定し、これを潰しておかなければなりません。前項で述べたとおり、労働審判手続では第1回期日までの準備が重要であり、必要な主張立証をすべて出し切らなければなりません。この準備が時間的に結構大変です。


5 早めにご相談を

  労働審判手続は、通常の訴訟手続で1年前後かけて解決してきた事件を、平均73日で解決しようというものですので、その分、関係当事者(特にある日、労働審判の申立があったことを突然知らされる事業者側)にはそれだけ負担を課すことになります。

  どのような企業であれ、組織であり社員がいる以上、労働問題を抱えるリスクは必ず存在します。もちろん、そのようなトラブルが生じないに越したことはないのですが、万が一の時には、早めに御相談下さい。