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2016/12/15 天皇の退位についての一考察

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  今年8月の天皇の「おことば」以来、世の中では、天皇の退位を認めるべきか否かについての議論が盛んであるらしい。考え方としては、皇室典範を改正して退位を認める、特例法を制定して退位を認める、退位には反対、の3とおりに分かれるようであり、政府は、いずれが妥当であるかの判断の参考とすべく、16人の「専門家」から意見を聴取したとのことである。

  報道によれば、一般国民では、高齢の天皇のお気持ちを尊重して退位を認めるべきであるとの意見が圧倒的多数派のようであるが、意見聴取された「専門家」らでは、そもそも退位を認めるべきではないという説がほぼ半数を占めるらしい。一部の保守系論者にあっては、退位を認めることは国のあり方を根本的に変えることになる、とまでの言い様である。





  さて、この問題について私はどうなのかというと、

  「どっちでもいいんじゃないの。なんでそう大騒ぎしてるの?」
である。なぜならば、
「個人としての誰が天皇であるか、誰が天皇になるかは、重要な問題ではない」
からである。




  というのは、天皇が天皇の地位に就くのは、その個人的な能力や資質を理由として選ばれたからではなく、単に、憲法及び皇室典範の規定に従えば皇位継承順位が最先順位だったからである(決して、現天皇の個人的な能力や資質が劣るなどと言っているわけではないので、念のため)。

  このように言うと、一部方面からは不謹慎と叱られてしまいそうだが、法的にはそうなのである。憲法及び皇室典範が定める天皇の「資格要件」としては、「皇統に属する男系の男子」であることに尽き(皇室典範1条)、それ以外の「資格要件」はまったくない。





  また、天皇制の安定的な維持のためには、むしろそう考えるべきなのである。もし天皇の地位に就くためには個人的な能力や資質に関する事項が要件となるとしたならば、必ずや、国民、マスコミ、「有識者」等の間で、複数の皇位継承資格者のうち誰が個人的な能力や資質の点で最も天皇としてふさわしいのかについての議論が巻き起こり、最先順位者よりも他の皇位継承資格者の方が天皇にふさわしいと主張して最先順位者の皇位継承に反対する者が出てくるなど、無用の混乱を招くことになるからである。皇族や貴族や武士がそれぞれ自己の推す候補者を担いで相争い、社会を混乱に陥れた例は歴史上枚挙にいとまがない。また、個人的な能力や資質に関してあれこれと論じられては、皇位継承資格者たちにとっても迷惑至極であろう。





  さらに、「天皇は国政に関する権能を有しない」(憲法4条1項)のだから、在位中も、特別の個人的な能力や資質が求められているわけではない。なお、退位反対論者の中には、天皇が自らの意向で退位することを認めることは、天皇が国政に関して権能を行使したことになり憲法4条1項に違反する恐れがあるとの理由を挙げる者もいるが、妥当でない。もともと「天皇は国政に関する権能を有しない」のだから、そのような天皇の地位が次の継承者に継承されたからといって、つまり誰が天皇になろうと、国政は何の影響も受けないからである。





  このように、天皇の地位に就くためには、理論的にも実際的にも、個人的な能力や資質に関する事項が要件とされているわけではないし、要件とされるべきでもない。天皇が個人的な能力や資質を理由として選ばれてその地位に就くものではない以上、天皇が他の人に交代するかどうかは重要な問題ではないであろう。