2020/04/15 契約に関する基本原則及び契約の成立に関する改正
弁護士 59期 横 田 卓 也
1 契約に関する基本原則
改正前民法では明文の規定はないものの、基本原則として広く受け入れられているものがあり、その中の一つに契約自由の原則があります。
具体的には、1)契約締結の自由、2)相手方選択の自由、3)方式の自由、4)契約内容の自由がありますが、今般の改正で、法令に別段の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定できること(521条1項)、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定できること(521条2項)、契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しないこと(521条2項)が規定され、2)を除き明文化されました。2)については、国籍・性別・職業等による差別的な契約締結まで許容されるとの誤解が生じることを避けるため明文化されませんでした。
従来からあった基本原則が明文化されたものであり、実務への影響は特段ないと思われます。
なお、1)の例外としては、借地借家法に基づく法定更新制度や放送法に基づくNHK受信契約などが、4)の例外としては、公序良俗違反(民法90条)や消費者契約法の規定による契約無効などがあります。3)の例外としては、保証契約の締結は書面を要すること(民法446条2項)などがあります。
また、1)の原則との関係で、従来から、契約締結に至っていない場合でも、契約締結に向けた交渉が相当程度行われ、相手方が契約締結に至るとの期待を抱いたような場合、正当な理由なく契約締結を拒絶した場合には損害賠償義務を負うという判例理論(契約締結上の過失の理論)がありますが、1)の原則の明文化によっても、当該判例理論には影響はないと思われます。
2 契約の成立
(1)契約の成立
契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(申込み)に対して、相手方が承諾したときに成立することが明文化されました(522条1項)。これも、従来当然と考えられてきたことが明文化されたもので、実務への影響は特段ありません。
(2)承諾の期間の定めのある申込み
改正前民法521条1項では、承諾の期間を定めた申込みは撤回できない旨が規定されていましたが、改正後は、かかる規定を維持しつつ、申込者が撤回する権利を留保したときはこの限りではないとして(523条1項)、撤回する権利の留保が認められました。この規定は、隔地者間の取引及び対話者間の取引いずれにも適用されます。
なお、申込者が定めた期間内に承諾の通知を受けなかった場合は申込みの意思表示は効力を失う旨の改正前民法521条2項の規定はそのまま維持されています(523条2項)。
さらに、改正前民法522条は、承諾の通知が延着した場合でも、通常の場合には承諾期間内に到達すべき時に発送したものであることを申込者が知ることができるときには、延着の通知をしなければならず、これを怠ると承諾の通知は承諾期間内に到達したものとみなす旨を定めていましたが、かかる規定は削除されました。
(3)承諾の期間の定めのない申込み
承諾の期間を定めない申込みは、承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは撤回することができない旨の規定(改正前民法524条)は維持しつつ、申込者が撤回する権利を留保したときはこの限りではないとして(525条1項)、撤回する権利の留保が認められました。さらに、改正前は対話者間の取引に関する申込みや承諾に関する規定はありませんでしたが、対話者間の取引においては、承諾期間を定めないでした申込みは、対話が継続中はいつでも撤回できること、対話終了後も申込みの効力を失わない旨を表示したときを除き、対話継続中に承諾の通知を受けなかったときは、申込みは効力を失う旨が規定されました(525条2項及び3項)。
(4)申込者の死亡等
改正前は、申込みの意思表示は、相手方への到達までに申込者が死亡し又は行為能力の制限を受けた場合、申込者が反対の意思表示をしていた場合又は相手方がそれらの事実を知っていた場合には効力を生じないこととされていました(改正前民法525条)。
改正後は、死亡や行為能力の制限を受けた場合だけではなく、意思能力を有しない常況にある者となった場合も含めて、申込者がその事実が生じたとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示していた場合又は相手方が承諾の通知を発するまでにその事実を知ったとき(改正前はいつまでに知ることが必要か不明確でしたが、承諾の通知を発するまでということが明確になりました。)は、効力を有しないこととされました(526条)。
(5)契約の成立時期
意思表示の効力は到達した時に効力を生じるのが原則であり、この点は改正前後で変更はありませんが、改正前民法526条は、隔地者間の契約成立に関しては、承諾の通知を発した時に成立するとしていました。しかし、通信手段が発達した現代においては、承諾の通知の発信から到達までの時間を短縮することは可能であり、到達主義の原則の例外を設ける必要性が乏しいことから、かかる規定は削除され、契約成立に関しても、原則通り、承諾の通知が到達した時点で成立することとなりました。