2017/05/15 契約の取消し・クーリングオフについて
弁護士 61期 小町谷 悠 介
1 民法による取消し
一旦締結された契約であっても、契約当事者の意思表示に瑕疵がある場合、または制限行為能力者によって契約がされた場合には、民法に基づいて、その契約を取り消すことができます。
「意思表示に瑕疵がある場合」とは、詐欺または強迫により意思表示が行われた場合を指します。また、「制限行為能力者」とは、未成年者や成年被後見人(精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者で、家庭裁判所により後見開始の審判を受けた者)などを指し、これらの者が行った契約は、一定の例外を除き、取り消すことができます。
2 消費者契約法による取消し
上述の民法の規定に加えて、消費者保護の観点から、消費者契約法は次のとおり、契約の取消しについて定めています。
すなわち、「個人」(事業として、または事業のために契約当事者になる場合を除く)(以下「消費者」といいます。)と「法人その他の団体」または「事業としてまたは事業のために契約当事者になる個人」(以下「事業者」といいます。)との契約において、事業者が以下の?から?のような勧誘を行い、消費者が、「誤認」または「困惑」をした場合、消費者は、その契約を取り消すことができます。
1) 重要事項について事実と異なることを告げること…例えば、偽ブランド品を正規のブランド品と告げるなど、契約目的物の性質について、真実と反することを告げる場合がこれに当たります。また、平成28年の法改正(施行日は平成29年6月3日)により、事業者が、契約目的物そのものの性質等について真実と反することを告げる場合に限らず、契約目的物が消費者の生命、財産、身体等への損害または危険を回避するために通常必要だと判断される事情を真実に反して告げる場合も消費者による取消しの対象とされることになりました。具体的には、例えば、事業者が、真実に反して、「今乗られている車は、間もなくエンジンが故障して事故を起こしますから、新車に買い替えた方がいいですよ。」と言って消費者に自動車を購入させる場合がこれに当たります。
2) 契約目的物について、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること…例えば、不動産取引において、「この土地は将来必ず値上がりします。」と説明するのがこれに当たります。
3) 重要事項又は重要事項に関する事項について消費者の利益となる旨を告げ、かつ、不利益となる事実(利益となる事実を告げられたことにより通常は存在しないと考えるべきものに限る)を故意に告げなかったこと…例えば、マンションの売買において、日照の良さを宣伝しておきながら、近い将来その日照を遮る形で隣に高層ビルが建設されることを知ってそれを告げなかった場合がこれに当たります。
4) (ア)消費者の住居や職場で勧誘が行われている場合、消費者が、事業者に対し、その住居等から退去するよう求めたにもかかわらず、事業者が退去しないこと(イ)事業者の事務所等(ア)以外の場所で勧誘が行われている場合、消費者がその場所から退去する旨を表明したにもかかわらず、事業者が消費者を退去させないこと…退去の求めや退去する旨の表明は、「帰ってくれ」「帰ります」といった直接的なものに限らず、「時間がありません」などといった間接的なものや身振り手振りでもこれに当たるとされる場合があるので注意が必要です。
5) 以上に加えて、平成28年の法改正(施行日については同上)により、事業者が、契約目的物の分量等が消費者にとって過量であることを知りながら契約が締結された場合、消費者はその契約を取り消すことができるようになりました。
3 特定商取引に関する法律によるクーリングオフ
消費者契約法と同様、消費者保護の観点から、特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」といいます。)は、以下の類型の取引によって締結された契約において、一定の要件を満たせば、消費者が契約の申込みの撤回または既に締結された契約を解除することができることを規定しています(この申込みの撤回または契約の解除が「クーリングオフ」と言われるものです。)。ただし、クーリングオフができるのは、消費者が事業者より法律で定められた書面の交付を受けてから一定期間内に限られます(以下の各取引内容の説明の末尾の括弧内にその期間を示しています。)。
1) 訪問販売…事業者が自身の営業所等以外の場所で商品や権利の販売または役務(サービス)の提供を行う等の取引、また、営業所等で行われるいわゆるキャッチセールス、アポイントメントセールス(8日間)
2) 電話勧誘販売…事業者が電話で勧誘を行い、消費者から申込みを受ける取引(8日間)
3) 連鎖販売取引…消費者を販売員として勧誘し、更にその消費者に次の販売員となる消費者の勧誘をさせる形で、販売組織を連鎖的に拡大して行う商品・役務(サービス)の取引(いわゆる「マルチ商法」が含まれる)(20日間)
4) 特定継続的役務提供…長期・継続的な役務の提供と、これに対する高額の対価を約する取引(現在、エステティックサロン、語学教室、家庭教師、学習塾、結婚相手紹介サービス、パソコン教室の6つの役務が対象とされています。)(8日間)
5) 業務提供誘引販売取引…「仕事を提供するので収入が得られる」という口実で消費者を誘引し、仕事に必要であるとして、商品等を売って金銭負担を負わせる取引(20日間)
6) 訪問購入…事業者が消費者の自宅等を訪問して、物品の購入を行う取引(8日間)