弁護士法人 小野総合法律事務所 ONO SOGO LEGAL PROFESSION CORPORATION

ブログBLOG

2019/08/15 契約の解除に関する民法の改正

弁護士 62期 石 川 貴 敏

1 はじめに


  契約の解除を巡る紛争は,比較的多く見られる紛争事例といえますが,来年(2020年)4月1日に施行される改正民法においては,契約の解除に関する条文も改正されています。

  そこで,本稿では,契約の解除に関する改正点のうち比較的重要と考えられるものについて解説したいと思います。




2 債務者の帰責性は不要


  現行民法においては,債権者が債務者の債務不履行を理由として契約を解除する場合,当該債務不履行について債務者に帰責性が認められることが必要とされています。

  これに対し,改正民法においては,解除は,当事者を契約に拘束することが不当な場合に契約の拘束力から解放させることを目的とした制度であり,解除を債務者に対する「制裁」と位置付けて解除について債務者の帰責性を要求することは解除制度の趣旨にそぐわないといった考えから,解除の要件として債務者の帰責性は要求しない(すなわち,債務者に債務不履行に関する帰責性が認められない場合でも,債権者は契約を解除できる)こととなりました(この点は,改正民法の文言上は必ずしも明確にはされていませんが,改正民法543条においては,債務者の帰責性を要求していた現行民法543条ただし書きが削除されていることから,上記のように考えられています。)。

  なお,債務者の債務不履行を理由として,契約の解除に加えて,債務者に損害賠償を請求する場合は,現行民法同様,改正民法においても債務者の帰責性が要求されます(改正民法545条4項,415条1項ただし書き)。




3 債務不履行の程度が軽微であるときは解除不可


  改正民法541条ただし書きにおいては,債権者からの履行の催告後相当期間が経過した時点で,債務不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして「軽微であるとき」は,債権者は契約を解除することができないことが明確にされました。

  上記「軽微であるとき」(軽微性)の要件については,以下の点に留意する必要があります。

 1)上記「軽微であるとき」には,不履行の部分が数量的に僅かである場合のみならず,付随的な債務の不履行にすぎない場合も含まれると解されています(すなわち,債務者は,「不履行となっている部分は,数量的に僅かであるから,解除は認められない」という反論(抗弁)をすることもできますし,「不履行となっている債務は,あくまで付随的な債務にすぎないから,解除は認められない」という反論をすることもできます。)。

 2)上記軽微性は,契約書の文言を含む当該契約に関する一切の事情をもとに,当該契約についての取引上の社会通念も考慮して,総合的に判断されます。そのため,契約書で一定の事由を解除事由として規定しており,かつ当該解除事由の該当性自体は認められる場合であっても,当該解除事由に該当する不履行が,契約の性質,契約の目的,契約締結に至る経緯や,当該契約についての取引上の社会通念に照らして軽微であると判断される場合には,解除は認められないことになります。

 3)解除が認められる「軽微ではない不履行」に該当するのは,当該不履行によって契約目的を達成することができなくなった場合に限られません。当該不履行によって契約目的を達成することができなくなったとまではいえない場合であっても,当該不履行が契約目的の達成に重大な影響を与える場合等については,当該不履行は軽微とはいえず,解除が認められます。

 4)債務不履行の程度が軽微であることの主張・立証責任は,債務者側にあるとされています。そのため,債務不履行の程度が軽微であることは,解除の効力を否定する債務者側において主張・立証する必要があり,訴訟において審理が尽くされた段階で,裁判官が上記軽微性が認められるかどうか不明との心証であった場合は,上記軽微性は否定され,解除の効力が認められることになります。

 5)上記軽微性が認められ,解除が否定された場合であっても,当該債務不履行について債務者に帰責性が認められる場合は,債権者は,債務者に対して損害賠償を請求することは可能です(改正民法415条)。