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2017/09/09 契約書作成に当たっての留意点

弁護士 62期 石 川 貴 敏

1 はじめ


  一昔前と異なり,最近は重要な契約に関して契約書が作成されていないことは少なくなりましたが,契約書が作成されている場合であっても,相互の権利義務が契約書上に適切に明記されていなかったり,盛り込まれるべき条項が盛り込まれておらず,あるいは盛り込まれるべきではない条項が盛り込まれ,一方当事者に不当に有利な契約となっていることは少なくありません。

  そこで,本稿においては,契約書作成の主たる目的を確認した上で,契約書作成に当たっての留意点について簡単に述べたいと思います。




2 契約書作成の目的


 (1) 契約書を作成する目的としては,まず紛争の予防が挙げられます。契約書に契約当事者の権利義務をはじめとする契約内容を明記することにより,相互の権利義務等が明確となり,契約内容の不明確性を原因とする将来の紛争が抑制されます。

 (2) 二つ目として,将来における紛争の解決が挙げられます。契約書を作成したとしても将来の紛争(相手方の請求が法的根拠のないものである場合を含む。)を完全に防止することは困難ですが,契約書に相互の権利義務が明確に規定されている場合は,当該規定を拠り所とした紛争の円滑な解決が期待でき,また裁判になった場合は当該規定が適用されることにより紛争が解決されることになります。その意味で,契約書は将来に対する予測可能性を担保し,またリスクヘッジ機能を有するといえます(ただし,後述する強行規定や一般条項等により契約条項が修正される可能性があるため注意が必要です。)。

 (3) 三つ目として,自己の利益確保が挙げられます。契約書に自己に有利な一定の内容を盛り込むことによって,あるいは相手方に有利な一定の内容を盛り込まないことによって,自己に有利な契約内容を客観化(書面化)し,自己の利益をより明確な形で確保することができます(ただし,一方に極端に有利な内容は,後述する一般条項等により修正を受ける可能性があります。)。




3 契約書作成に当たっての留意点


 (1) 上記契約書作成の目的から自明といえますが,契約書の記載は,明確かつ簡潔である必要があります。契約書の記載が不明確である場合,双方が自己に有利な解釈を主張し合う等紛争を誘発し,紛争の解決基準としても機能しないことになります。また契約書の記載が冗長である場合,契約書の条項に解釈の余地が生まれ,上記と同様の事態に陥る可能性があります。

 (2) 次に,将来顕在化する可能性のあるリスク(契約上の義務が履行されなかった場合やイレギュラーな事態が発生した場合等)を検討し,これに対応した条項を契約書に規定しておく必要があります。契約を締結する時点では,ほとんどの場合当事者間の関係は良好であり,また契約締結時は,契約の本来的権利義務(売買契約でいえば,売主による目的物移転義務と買主による代金支払義務)に最も関心が向けられることから,ともすれば上記条項の整備はおろそかにされがちです。しかし,上記条項の整備が不十分であると,将来上記リスクが顕在化した場合,紛争が長期化し,また裁判になった場合想定外の判決が言い渡される可能性もあることから,上記条項についても十分に注意を払う必要があります。

 (3) そのほか,契約書を作成するに当たっては,法律の規定にも配慮する必要があります。すなわち,契約自由の原則から,契約内容の決定は,原則として当事者に委ねられていますが,一定の法律の規定は強行規定とされ(借地借家法9条,労働基準法13条等),当事者の合意があっても(契約書で強行規定と異なる内容を定めたとしても)排除できないものとされているため,契約書の作成に当たっては強行規定に反するものでないか確認する必要があります。また,民法1条2項(信義誠実の原則を規定),同3項(権利濫用の禁止を規定),民法90条(公序良俗に反する法律行為を無効とする規定)等のいわゆる一般条項の適用により,契約書の条項が無効とされることもあることから,これらの一般条項の適用可能性にも配慮して契約書を作成する必要があります。さらに,判例によって一定の合意に関して法律に明文の規定のない成立要件等が明示されている場合もあるため(賃貸借契約における通常損耗補修特約の成立要件について判示した最高裁平成17年12月16日判決等),判例にも留意することが必要です。




4 最後に


  契約は一度締結してしまうと一方当事者の都合によって破棄することはできません(法律に特別の規定がある場合や特約がある場合を除く。)。契約書にある一文を入れたことにより(あるいはある一文を入れなかったことにより),又は法律の規定や判例に対する無配慮から,後に予想もしていなかった大きな紛争となることもあるため,契約書の作成に当たっては上記の点に十分留意し,必要に応じて専門家に意見を求めることがリスク管理の点からも重要です。