弁護士法人 小野総合法律事務所 ONO SOGO LEGAL PROFESSION CORPORATION

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2019/12/17 委任

代表社員 弁護士 庄 司 克 也

1.委任とは



  委任とは,当事者の一方(委任者)が,法律行為をすることを相手方(受任者)に委託し,相手方がこれに承諾することによって効力を生ずる契約である。「法律行為でない事務」を委託する場合を「準」委任と言い,委任に関する規定が準用される。私ども弁護士が皆様から法的紛争の処理の委託を受ける契約も委任契約に属する。





2.報酬



  委任は無償が原則とされる。時はローマ法時代,委任は人々のお互い様の助け合いの精神に基づくボランティア行為と理解され,対価に相応しくないと考えられていた。そして,職業としての事務処理行為のうちの多くは,雇用や請負として有償が原則とされたが,一部(弁護士や医師,教師等)については,それらは「知能的な高級労務」であり,「対価」と結びつくことに適さないと考えられ,無償で行われるものの範疇(すなわち委任)に属すると理解されたようである。今回の民法改正でもこの原則は変更されなかったので(改正法第648条第1項),令和の時代にあっても,この考え方が連綿と生き続けているということになろうか。もちろん特約で「有償」とすることは可能であるし,そうしたからといって「低俗な労務」と評価されるわけではない。





3.善管注意義務等



  受任者は,委託された法律行為や事務を「委任の本旨に従い」かつ「善良なる管理者の注意義務をもって」処理しなければならない。前者は「当該委任契約の目的とその事務の性質に応じて最も合理的に処理すること」と言われる。後者(略して「善管注意義務(ゼンカンチュウイギム)」)は「その事務の受任者として通常なすべき注意をすること」とされる。当該受任者の個人的資質や能力が(残念なことに)通常より低かったとしても,求められる注意義務の基準が下がることはない。「私としては,全力を尽くしたのですが…」と謝罪会見しても免責されるとは限らない。要は客観的な基準であって主観的(属人的)なものではない。ただ,その水準設定は,「全国民の平均」というようなものではなく,個々の当事者の属性を考慮する。例えば受任者が専門的な知識と経験を基礎として,素人からある特定の事務の委託を引き受けることを営業としている,いわゆる「プロ」の場合,当該事務の受任者としての注意義務は,当該事務についての「周到な専門家」を標準とする高い程度になるとされる。さらに,個々の事務処理の場面でどのような具体的規範(そのときどうすべきであったか,どうすべきでなかったか)となるかは,個別具体的な状況に応じて異なるから,あらかじめ具体的に固定しておくことは困難である。だから「善管注意義務違反の有無」を判定するためには,当該事務(職業)に関する「プロフェッショナル」としての「仕事の流儀」がどのようなものであるかについて,広い知見と理解が必要になる。





4.再び報酬



  有償委任における報酬の支払時期について,改正法は「委任事務の処理それ自体に対して報酬の支払いを約束した場合」は委任事務を履行したとき,すなわち「後払い」とする(期間によって報酬を定めたときはその期間を経過したとき。改正法第648条第2項。)。他方「委任事務の履行によって得られる成果に対して報酬を支払うことを約した」場合(「成果報酬型」とか「成果完成型」という)は,成果が生じたときとする(成果の引き渡しを要するのであれば,引き渡しと同時履行。改正法第648条の2)。後者の場合,成果がもたらされなければ受任者は報酬を請求できないが,そのことは,受任者に債務不履行責任があることを意味しない。成果報酬型委任だからといって受任者は,「必ず成果をもたらす義務」を負うわけではないからである。悲しいかな,どんなに頑張ってもできないことがあるのがこの世の中というものである。





5.任意解除と損害賠償



  委任は,いずれの当事者も「いつでも」解除できる。相手方に債務不履行があるような場合に限らず「やめたくなったら,やめられる」ということである。ただし「相手方に不利な時期に解除したとき」は,そのことにより相手方に生じた損害を賠償しなければならない。合わせて改正法は「『委任者』が,『受任者』の利益をも目的とする委任を解除したとき」には,委任者は受任者に生じた損害を賠償しなければならないと明記した(改正法第651条第2項第2号)。これまで受任者の利益をも目的とする委任について,委任者は任意解約できるのかどうか(できるとしても制限的とすべきではないか)等に関して判例や学説に争いがあったが,改正法は,「受任者の利益をも目的とする委任契約」だからと言って,契約の継続を強制されることはないが,損害は賠償すべきとしたものである。

  なお,どの場合でも任意解除するについて「やむをえない事由」があった場合には相手方への損害賠償の必要は無い。
ところで上記の「受任者の利益をも目的とする委任」については「専ら報酬を得ること」は,これに該当しないと明記されている。「報酬」以外の「受任者の利益」とはいったい何かが問題になるが,古い例では,Aが,Bに対する自らの債権の回収に充てるため,Bから,Bが第三者に対して有する債権の取立の委任を受けるような場合があげられている。なお,委任が履行の途中等で終了した場合の報酬の処理は,別に規定されている(大雑把に言えば「出来高払い」のような考え方。改正法648条第3項。同第648条の2第2項による634条の準用)ので,報酬の問題はそちらで解決されることとなる。





6.まとめ



  委任契約についての改正は多くは無いが,改正部分は従来の判例や学説を「濃縮」して整理したものといえ,良く理解しておかないと善管注意義務違反に問われるものと思われる。