2013/08/19 弁護士会照会制度
弁護士 53期 大石 守史
弁護士会照会制度とは、弁護士が依頼を受けた事件について、証拠や資料を収集し、事実を調査するなど、その職務活動を円滑に行うための照会の権限を法律上認める制度です。弁護士の資格があれば、弁護士法第23条の2に基づき、弁護士会を通じて“公務所又は公私の団体”に照会して必要な事項の報告を求めることができ、照会先には原則として回答・報告する義務があります。但し、照会が認められるためには必要性・相当性が要求されますし、必要性・相当性などについて争いになったり、それが裁判にまで発展したりするケースもあります。決して万能の魔法の杖ではありませんが、弁護士だから可能な強力な調査ツールであることは間違いありません。
照会先が“公務所又は公私の団体”とされていることから明らかなように、照会のパターン・実例は多数に及び、だからこそ強力な調査ツールなのですが、紙面の関係上、ここでは、制度の有益性がイメージしやすそうな具体例を2つのみ挙げておきます。1つ目の例は「●●検察庁を照会先とする、交通事故の不起訴記録の実況見分調書の謄写・閲覧」です。これによって、交通事故案件で、民事の損害賠償請求訴訟を提起するときに役立つ資料・情報が取得できます。2つ目の例は「携帯電話会社を照会先とする、携帯電話の番号●●の契約者名等の照会」です。これは、たとえば、損害賠償請求訴訟の提起を考えている配偶者の不倫相手に関し、携帯電話の番号しか知らない場合において、その者の氏名と住所を調べたりするときに使えます。
ところで、事案によって、情報・資料の使い方や有益性が違ってくることは当然です。また、たとえ、この世のどこかに事案の解明や目的の達成に有益かつ強力な情報・資料が存在しているとしても、何がそのように役立つ情報・資料なのか、それがどこにあるのか、そういった点に発想が及ばなければ、そもそも、その取得に向けた動きに繋がりません。そのため、この制度の有益性は、使う側の弁護士の感性、法律や訴訟に関する知識・経験等に大きく左右されます。このような文脈で言及することにプレッシャーを感じつつ、ここで、まとめの一言。現時点で具体的にトラブルとか訴訟になりそうな状況になくても、何か気になること、ひっかかることなどがあれば、我々弁護士との会話の中でさらっとでも話題にしてみてはいかがでしょうか?弁護士が何らかの調査(弁護士会照会制度の活用)をビビッと思いついたり、その結果として、予想外の問題が判明したり、思いもよらなかった有益な情報・資料が得られることもあるかも知れませんので。そのくらいの気軽な感覚で我々弁護士に接していただき、弁護士を活用する一場面としていただけると幸いです。
最後に、余談を一つ。名探偵●●といった感じで、刑事事件(特に殺人事件?)を解決するのが主な仕事であるというイメージを抱いている人がいてもおかしくなさそうな探偵業には、「探偵業の業務の適正化に関する法律」という根拠法があります。同法によれば、「都道府県公安委員会に届出して、“特定人の所在又は行動についての情報”であって当該依頼に係るものを収集することを目的として“面接による聞込み、尾行、張込みその他これらに類する方法”により実地の調査を行う」のが探偵業者です。探偵は資格制ではなく、調査・収集の対象は“特定人の所在又は行動についての情報”に限られ、更に、弁護士会照会制度のような権限が認められているわけでもないので、弁護士とは随分と質的な違いがありますね。勿論、「だから弁護士の方が優っている」と言うつもりはなく、弁護士も事案に応じて探偵への依頼を考えますので、要は、機能・ニーズに応じた役割分担ですね。