弁護士法人 小野総合法律事務所 ONO SOGO LEGAL PROFESSION CORPORATION

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2015/05/17 弁護士法と非弁行為の禁止について

弁護士 61期 小町谷 悠介

1 弁護士法とは

  弁護士法は、全9章(第1条?第79条の2)から成る法律で、弁護士の使命及び職務、弁護士となるための資格、弁護士の権利及び義務等を定めています。

  弁護士法においては、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現する」ことが弁護士の使命とされ(第1条第1項)、弁護士は、その使命に基づいて「誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければなら」ず(第1条第2項)、「常に深い教養の保持と高い品性の陶やに努め、法令及び法律事務に精通しなければならない」(第2条)という基準に基づいて、職責を全うすべきものとされています。

  そして、上記使命を達成するため、弁護士には職務の自由と独立が要請され、高度の自治が保障されているため、自身の手によって自らの行動を規律する社会的責任を負うことから、日本弁護士連合会は、弁護士の職務に関する倫理と行為規範を明らかにするため、「弁護士職務基本規程」という内部規則を定めています。

  したがって、我々弁護士は、弁護士法及び弁護士職務基本規程にしたがって、日々の業務を行っています。


2 非弁行為の禁止について

  上記のような弁護士法の内容に鑑みると、弁護士法は、弁護士にのみ関係する法律で、弁護士以外の一般の方々には全く関係のない法律だと思われるかもしれませんが、必ずしもそうとはいえません。なぜなら、弁護士法には、弁護士以外の者が、本来、弁護士が取り扱う法律事務を取り扱ったり、周旋したりすること(これらの行為を「非弁行為」と呼ぶことがあります。)を禁止する規定(弁護士法第72条)があり、この規定は、その内容どおり、弁護士以外の者を対象としているからです。

  すなわち、弁護士法第72条本文では、「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。」とされています。弁護士法にこのような規定が設けられた趣旨は、前項の弁護士の使命や職責に関係しています。すなわち、最高裁の判例によれば、「弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、ひろく法律事務を行なうことをその職務とするものであつて、そのために弁護士法には厳格な資格要件が設けられ、かつ、その職務の誠実適正な遂行のため必要な規律に服すべきものとされるなど、諸般の措置が講ぜられている」一方で、「このような資格もなく、なんらの規律にも服しない者が、みずからの利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを業とするような例もないではなく、これを放置するときは、当事者その他の関係人らの利益をそこね、法律生活の公正かつ円滑ないとなみを妨げ、ひいては法律秩序を害することになるので、同条は、かかる行為を禁圧するために設けられたものと考えられるのである。」とされています(最判昭和46年7月14日・刑集25巻690頁)。

  そして、裁判例においては、弁護士法第72条のいう「一般の法律事件」とは、「法律上の権利義務に関し争いや疑義があり、又は、新たな権利義務関係の発生する案件」をいうと解されており、「法律事務」とは、「法律上の効果を発生、変更する事項の処理」だと解されているようです。具体的には、「自賠責保険金の請求・受領」や「賃貸人の代理人として、その賃借人らに建物から退去して明け渡してもらうという事務」が弁護士法第72条にいう「一般の法律事件に関する法律事務」に当たると判断されています。

  もっとも、弁護士法又は他の法律に別段の定めがあれば、弁護士法第72条による規制対象にはならないとされており(弁護士法第72条但書)、例えば、司法書士には、簡易裁判所において請求額が140万円を超えない範囲の民事訴訟等の代理権を持つことが認められていたり(司法書士法第3条第1項6号、7号)、債権回収会社には、一定の条件のもと、業として特定金銭債権の管理及び回収を行うことが認められたりしています(債権管理回収業に関する特別措置法)。


3 最後に

  上記の弁護士法第72条の規定にしたがえば、賃貸住宅の管理業者が、賃貸人より依頼を受け、賃貸人の代理人として、有償で、賃借人との間で賃料の増額交渉を行ったり、立ち退き交渉を行ったりすることは許されないことになります。また、たとえ、資格を有する司法書士や行政書士であっても、司法書士法及び行政書士法が定める業務範囲を超えて(例えば140万円を超える金員の請求事件の当事者の代理人や離婚事件の当事者の代理人となって事件処理を進めること。)業務を行うことはできません。

  皆様の身の回りで法律上の問題が発生した場合であっても、弁護士への法律相談や事件処理への依頼は、費用や時間の問題から、ときに敬遠しがちな場合もあるかもしれません。しかし、そういった場合に、弁護士に相談等をする代わりに、弁護士以外の隣接士業やコンサルティング会社に相談をされて解決を図ろうとすると、上記のとおり弁護士法72条に抵触する事態が全くないとは言い切れません。

  つきましては、皆様の身の回りで法律上の問題が発生したような場合には、ご面倒であっても極力弁護士へのご相談をされることをお勧めします。