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2016/02/16 後見制度支援信託

弁護士 62期 山 埼 悠 士

1 成年後見制度を巡る弁護士や司法書士の不祥事が後を絶ちません。新聞報道によれば,弁護士や司法書士等の専門家がなる後見人(専門職後見人)の着服による昨年の被害総額は約5億6000万円に上るとのことであり(日本経済新聞2015年9月1日朝刊社会面「成年後見 やまぬ着服」),法に従い職務を遂行すべき専門職により制度が濫用されていることは憂慮に堪えません。

  このような専門職後見人による不正行為を防止するため,日弁連等により研修の実施,相談窓口の設置等様々な対策が検討されているようですが,水際で不正行為を阻止することは現実には困難と考えられ,結局は専門職後見人それぞれの倫理観に委ねられているのが実情かと思われます。

  一方,専門職後見人でなく,被後見人の配偶者,親,子等の親族後見人の場合,その不正行為を防止するための施策として後見制度支援信託の制度が存在します。




2 後見制度支援信託とは,どのような制度か

(1)後見制度支援信託の趣旨は,被後見人の財産の一部を信託銀行等に信託し,親族後見人の管理する財産を減少させ,もって親族後見人の不正行為を防止しようというものです。

  後見制度支援信託を利用して信託銀行等に信託することのできる財産は金銭に限られます。現時点で,後見制度支援信託を取り扱うのは大手信託銀行等特定の金融機関のみですが,各行の約款には元本補てん条項が設けられており,仮に信託財産が毀損した場合でも,原則として補てんを受けることが可能です。なお,後見制度支援信託の対象となる事件は成年後見事件を含む後見事件であり,保佐や補助の制度は対象とされていません。

(2)信託契約の締結

  上記のとおり,後見制度支援信託は親族が後見人に就任する場合を想定するものですが,信託契約の締結は専門職後見人が行うこととされています。

  具体的には,家庭裁判所は,後見開始の申立てを受けた事件について後見制度支援信託の利用を検討すべきと判断した場合,まず,専門職後見人を選任します(実務上は,このとき,併せて親族後見人を選任することもあるようです。)。選任された専門職後見人は,後見制度支援信託の利用の適否について検討し,その利用に適していると判断する場合は,その旨家庭裁判所に報告します。家庭裁判所は,専門職後見人の報告も踏まえ,後見制度支援信託の利用が適当と判断した場合,専門職後見人に指示書を発行し,専門職後見人は,この指示書に基づき信託銀行等と信託契約を締結することになります。

(3)専門職後見人の辞任

  以上のとおり信託契約が締結され,その関与の必要がなくなった場合,専門職後見人は後見人を辞任し,既に選任された(あるいは,この段階で選任される)親族後見人に対し,管理していた財産を引き継ぎます。



3 後見支援制度信託を利用した場合の財産管理

  信託した財産は信託銀行等において管理され,当然に後見人がその払戻しを受けることはできません。親族後見人は,施設の利用料の支払といった日常的に必要な金銭を専門職後見人から引き継ぎ,これを管理することになります。

  なお,引き継いだ金銭のみでは毎月の収支が赤字になる見込みである場合には,信託契約で定期交付金の設定を行うことが考えられます。また,施設入居のための一時金等まとまった金額が必要となる場合,後見人は,家庭裁判所に必要な金額とその理由を記載した報告書を提出し,家庭裁判所がその内容に問題がないと判断し指示書を発行した場合,信託銀行等から当該額の払戻しを受けることができます(本人に臨時収入があったりした場合には,家庭裁判所の指示書により追加信託をすることも可能です。)。



4 後見制度支援信託の専門職後見人への適用

  後見制度支援信託は,あくまで親族後見人が後見業務を行う場合を前提とするもので,専門職後見人が後見業務に従事する場合への適用は想定されていません。

  この点,専門職について後見制度支援信託を適用すべきか否かは,畢竟,専門職に対する社会的な信頼の程度に依拠すると考えられますが,上記のとおり専門職による不祥事が続く現状,果たして,専門職について後見制度支援信託の適用がないことが当然に是認され得るかは疑問なしとしません。もちろん,この制度が不正に対する唯一の防止策というわけではありませんが,これからますます重要性を増す成年後見制度の安全性の確保については更なる議論が必要であり,それは,専門職であっても例外でないと考えられるところです。