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2015/04/16 従業員が感染症に罹患した場合の就業制限について

弁護士 63期 田村  圭

1 はじめに

  毎年冬から春先にかけてインフルエンザやノロウイルス等の感染症が流行しますが、感染症が社内で流行すると、従業員やその家族の健康に有害であるばかりではなく、労働力の低下を招き、さらには感染症を拡大させたことによる企業の社会的責任が発生するおそれもあります。そこで、従業員が感染症に罹患した場合または罹患を疑われる場合の対応策について触れてみたいと思います。



2 就業を制限できるか

(1)法令に基づく就業制限

  感染症に罹患した従業員の就業制限については、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下「感染症法」といいます。)等に規定があります。

  感染症法では、感染症を危険度の高い順に一類から五類の区分に分類し(例えば、西アフリカで爆発的に感染を広げ世界的に注目されているエボラ出血熱は一類感染症に、H5N1型の鳥インフルエンザは二類感染症に、H5N1型以外の鳥インフルエンザは四類感染症に、季節性インフルエンザやノロウイルスは五類感染症に該当します。)、「一類感染症」、「二類感染症」、「三類感染症」、「新型インフルエンザ等感染症」の患者または無症状病原体保有者の人が従事する一定の業務が、都道府県知事の通知により制限されています。

  したがって、従業員がエボラ出血熱やH5N1型の鳥インフルエンザに罹患した場合には感染症法に基づく就業制限の対象となりますが、季節性インフルエンザやノロウイルスの場合には、上記の法令に基づく就業制限の対象とはなりません。

  なお、労働安全衛生法68条にも病者の就業を制限する規定が設けられていますが、行政通達により、同法の就業制限の対象となる疾病は、「伝染させるおそれが著しいと認められる結核」と解釈されており(昭47.9.18基発第601号の1、平12.3.30基発第207号)、その適用範囲は極めて限定されています。

(2)業務命令による自宅待機等

  法令に基づく就業制限の対象とならない場合であっても、使用者は、感染症に罹患しまたは罹患を疑われる従業員に対して、業務命令権の一環として自宅待機を命じたり、施設管理権の一環として社屋への立ち入りを一定期間禁止するというような措置を採ることが考えられるでしょう。このような措置を採ることについて、あらかじめ就業規則で明示しておくことが望ましいのですが、仮に、就業規則における明示の根拠がなくとも、使用者は、その有する業務命令権及び施設管理権に基づきこのような措置を採ることができます。ただし、業務命令権等の濫用とされないためには、それ相当の事由が存在することが必要です。



3 休業手当を支払う必要があるか

  このように、使用者は、感染症に罹患しまたは罹患を疑われる従業員の就業を制限することができますが、就業制限の根拠の違いにより、労働基準法26条に定める休業手当を支払う必要性の有無について違いが生じますので、この点については注意が必要です。

  まず、感染症法に基づく就業制限の場合や医師等による指導により労働者が休業する場合は、一般的に「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられますので、休業手当を支払う必要はありません。

  これに対し、使用者が業務命令権の一環として医師による指導等の範囲を超えて(外出自粛期間経過後など)自宅待機を命じるような場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当し、休業手当を支払う必要があると考えられます。

  なお、大規模な集団感染が疑われるケース等で保健所等の指導により休業させる場合については、一般には「使用者の責に帰すべき事由による休業」には該当しないと考えられますので、休業手当を支払う必要はありません。



4 おわりに

  従業員の就業制限等について紹介しましたが、この他にも、従業員が感染症に罹患したことについて企業が安全配慮義務に問われることがあるか否か、従業員が感染症に罹患したことが労災保険給付の対象となるか等、企業は、感染症の流行に関し、様々な法的問題に直面する可能性があります。対応策についてお困りの際には、当事務所までご相談いただければと思います。