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2019/04/16 改正民法の施行日の例外について

パートナー弁護士 松 田 竜 太

1 原則的な施行日




  小野総合通信では、57号(2017年11月1日発行)以来、債権関係の民法改正についての記事を掲載しておりますが、既に多くの方もご存知のとおり、改正後の新しい民法は2020年4月1日から施行されることが決まっています。

  本稿では、上記の原則的な施行日に先行して施行される例外について、ご説明したいと思います。






2 定型約款について




(1) 58号の山本弁護士の記事にあるとおり、改正後の民法には定型約款に関する規定が新設されました。これは、現代社会において約款に基づく契約や取引が広く行われているにもかかわらず、改正前の民法には約款に関する規定がなく、その有効性や拘束力が不透明であったことから、「定型約款」という一定の類型の約款について、新たな規律を定めようとするものです。



(2) それでは、新しい民法の施行前から、定型約款に該当する約款を利用して行われていた契約について、新法の定型約款に関する規定は適用されるのでしょうか。

  法改正の場面では、改正法の施行前になされた契約には、改正前の旧法を適用するのが一般的です。なぜなら、契約当事者としては、契約締結時に効力のある法律が適用されると考えるのが通常であり、法改正による新たな法律が当然に当該契約に適用されるとなると、当事者にとっては不意打ちとなりかねないからです。

  ところが、定型約款に関しては、事情が異なります。上述のように、新しい民法の定型約款の定めは、それまで明文の規定がなく、法的安定性を欠いていた約款に関し、一定の明確かつ合理的なルールを適用としようとするのが目的です。よって、約款による契約の当事者が、法改正後も改正前の旧民法が適用されると期待しているとは、(旧民法に約款の規定はないのですから、)あまり考えられません。さらに、新たな民法の定型約款は、約款に基づく契約の内容を画一化するための制度であるのに、契約の締結時期によって、新民法が適用されたり、されなかったりすれば、契約内容の画一化が実現されないことにもなりかねません。

  このような理由から、新しい民法の定型約款に関する規定は、法改正の前に締結された契約を含め、全ての定型約款に基づく契約に一律に適用されることとなりました(新民法の(以下同じ)附則33条1項本文)。



(3) しかし、旧民法に約款に関する明文規定がなかったとしても、新しい民法の定型約款とは異なる何らかのルールが適用されることを期待していた当事者が存在する可能性は、皆無であるとはいえません。

  そのため、新しい民法の施行日(2020年4月1日)の前日までの間に、当事者の一方が書面又は電磁的記録によって反対の意思表示をした場合は、その契約には新民法の定型約款の規定は適用されず、改正前のルールによるものとされました(附則33条2項、3項)。

  他方で、当該契約について、「契約又は法律の規定により解除権を現に行使することができる者」は、新法の適用に関する反対の意思表示はできないともされています(附則33条2項)。これは、定型約款の規定の適用を望まない当事者が、その契約を解除して終了させ、契約関係から離脱できるのであれば、新たな民法の適用を否定するまでもないと考えられることによります。



(4) そして、上記の反対の意思表示を新民法の施行日前にしなければならないという附則33条3項の規定は、2018年(平成30年)4月1日から既に施行されています(附則1条2号参照)。

  よって、例えば、A社宛てに、顧客Bから「定型約款」云々の記載がある文書や電子メールが届いた場合、それは新民法の適用に対する上記の反対の意思表示であるかもしれないため、A社は対応を吟味する必要があります。なぜなら、仮にその意思表示が有効な場合、A社は、Bに関し、新民法の施行日以降も定型約款の規定が適用されない前提で、他の顧客と区別して個別に管理する必要が生じる可能性があるからです。

  A社としては、まず、Bとの契約が、新しい民法が定める定型約款に基づくものといえるかを検討します。これが定型約款に基づくといえる場合は、当該約款の中に、顧客の解除権や解約権が明記された条項がないか、また、Bに法定の解除権(例えば、民法が定める債務不履行による解除権や、委任契約の任意解除権等)が認められないかを確認します。

  以上の結果、Bに契約の解除権が認められる場合、Bによる反対の意思表示は無効であり、特段の対応は必要ありません。逆に、Bの解除権が認められない場合、前述の「解除権を現に行使することができる者」には、相手方から合意解除の申入れを受けた当事者も含まれると解されるため、A社としては、Bに対し、契約の合意解除を申し入れることが考えられます。仮に、A社にとって、Bが合意解除に応じると不都合な場合、A社は、新法の適用に同意してくれるようBと交渉し、Bに応じてもらえなければ、前述したとおりBとの契約を個別管理せざるを得ません。





3 公証人による保証意思の確認手続について




  61号の小池弁護士の記事にあるとおり、事業のために負担した貸金等債務を対象とする個人保証契約又は個人根保証契約は、一定の例外を除き、保証契約の締結前1か月以内に作成された公正証書により保証債務の履行意思が確認されていなければ、無効となります。

  そこで、改正後の新民法が施行される2020年4月1日の時点から、円滑に上記の方法による保証契約の締結が行えるよう、上記施行日の前から公正証書の作成が可能とされています(附則21条2項、3項)。この附則21条2項及び3項は、2020年3月1日から施行されますので(附則1条3号参照)、同日から、保証意思の確認のための公正証書が作成できるようになります。