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2019/06/14 改正民法(債権法)の概要?連帯債務に関する見直し

パートナー 弁護士 齊 藤 潤一郎

1 連帯債務とは


  民法(債権法)改正により、連帯債務に関する規定が見直されました。

  連帯債務とは「債務の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債務を負担する」(改正民法第432条)場合における債務のことであり、具体的には、併存的債務引受があった場合の旧債務者と新債務者の債務などが連帯債務に該当すると言われています。親子ローンで借り入れをする場合の親の債務と子の債務も連帯債務とされることが多いです。

  例えば100万円の貸金債務について、債務者Aと債務者Bが存在し、この債務が連帯債務となる場合(以下この事例を前提に記載します。なお、AとBの負担部分は同一とします。)、債権者はAにもBにもそれぞれ全額100万円の請求をすることが可能となりますが、受領できる合計額は100万円であるという関係になります。連帯債務自体は触れる機会は少ないかもしれませんが、連帯保証において連帯債務の規定の一部が準用されています(改正民法第458条)。また、複数の連帯保証人が存在する場合における連帯保証人間の関係は(商法の適用などにより)連帯債務とされる可能性があります。




2 主な改正点


  連帯債務に関する規定の主たる改正点は、債務者Aに生じた事由が債務者Bにどう影響するかという点です。

  例えば、Aが債権者に100万円の債務のうち70万円を支払った場合、Bとの関係でも残債務額は30万円となります。つまり、Aが行った「弁済」という事由はBにも影響することになります。

  他の連帯債務者に影響する事由を「絶対的効力事由」、影響しない事由を「相対的効力事由」と呼びますが、現行民法においては原則として相対的効力事由であるとしつつ、1)請求、2)更改、3)相殺、4)免除、5)混同、6)消滅時効、は絶対的効力事由である旨の規定が存在し、この他、7)弁済(代物弁済・供託を含む)も絶対的効力事由であると考えられています。

  この点、改正民法においては、上記のうち1)請求、4)免除、6)消滅時効については、相対的効力事由とされています。




3 改正による具体的な影響


1)    請求

  「請求」の法律的な効力としては、期限の定めのない債務が履行遅滞になることと、時効中断が生じること、が挙げられます。期限の定めがない債務である場合において、現行民法ではAに対する請求をもって、請求を受けていないBも履行遅滞状態になりましたが、改正民法においてはBには影響しないことになります。これにより、遅延損害金の計算についてもAとBの起算点がずれる可能性があることになります。

2)   免除

  現行民法において債権者がAに対して債務免除をするとBにも影響してしまい、具体的には、債権者はBに対して50万円しか請求できなくなります。改正民法においてはAに対して債務免除をしてもBに対して100万円を請求できることに変わりはないことになります。この改正は、債権者の債権管理という意味では便利になったと言えるでしょう。Aの資力が乏しく、一定の金員の支払いをもって残債務を免除するといった交渉をするにあたっても、現行民法ではBへの影響を考慮しなければならなかったのですが、改正民法においては柔軟に対応できるようになります。

3)   消滅時効

  現行民法においてAについて消滅時効が完成してしまうと、これがBにも影響してしまい、具体的には、債権者はBに対して50万円しか請求できなくなります。改正民法においてはAについての消滅時効の完成はBに影響しませんので、免除と同様に債権者の債権管理の観点からは便利になります。Bに資力がある場合Bのみを窓口し、資力のないAを放置してしまうようなケースは実務上生じます。このような場合、資力のないAを放置したが故にAについて消滅時効が完成し、Bにまで影響してしまうという、債権者としては非常に歯痒い思いをする可能性があったので、債権者としてはAについても時効中断の措置を取り続ける必要がありました。改正民法においては債権管理のコストなどを勘案して柔軟に対応することができるようになると思われます。




4 最後に


  改正民法では当事者の意思によって絶対的効力事由、相対的効力事由の内容を変更できるとされていますので、契約書の条文によって上記の結論を修正することは可能です。民法改正に伴い連帯債務が関係する書面・契約書の見直しを検討する場合には、この点も考慮することになるでしょう。